その穏やかな休息のBGMには、神崎のいびきは似つかわしくないのだが。
苦笑しつつも、無邪気だなぁと思う。

ちらと顔を向ければ、いつも開きっぱなしの口は、やはり開いたままだった。
本当、大きな口だなぁ。
小鳥くらいなら吸い込んでしまいそうだ。

他の三年生よりも幼い印象がある神崎は、なんとなくしんべヱに似ている。
肉付きのいい頬っぺたも柔らかそうだ。
……触ってみたいな。ダメだろうか。
あれだけ呼んで起きなかったんだ、バレなければいい、よな。
私はゴクリと唾を飲み込んで、薄く紅潮した頬に手を伸ばした。
恐る恐る、人差し指で触れる。
予想通りぷにぷにした触感に、思わず頬が緩んだ。

(なにこれ、癒される…!)

相手の無反応をいいことに、遠慮なんか忘れて触り倒す。

ぷにぷに、ぷにぷに。

ハタから見れば大変危険人物に見えるだろうが、決してやましい気持ちなんかない。
私は癒されたいだけだ。柔らかいものは疲れを癒す効果があるんだ。
誰に問われたわけでもないのに、言い訳する。もちろん、手は神崎の頬を触ったままだけど。

(この柔らかさ、たまらないなぁ)

至福の時間に、ため息がこぼれる。
好きなだけ頬を触って満足した私は、神崎が目を覚ます前にその場を後にした。
当初の目的は果たせなかったけれど、十分癒されたからよしとしよう。


疲れなんか吹っ飛んだ
title:瞑目




三郎がひとしきり左門の頬を堪能し、満足してその場を立ち去ったあと、残された左門がむくりと体を起こした。

あんまりにも三郎が自重せず触りまくるものだから、目を覚ましてしまったのだ。
しかし彼の気迫に圧され目を開けることもできず、また、左門自身の感情からも起きていることを知られるわけにはいかなかった。

三郎が立ち去った方向を未だ見詰める左門の頬は明らかに先程より朱くなっていて、その瞳もどこかうっとりしたような色をしている。
同室の友人達が見つければ、熱でもあるのかと医務室に運ばれそうだが、べつに熱があるわけではない。

ただ、憧れの先輩に頬を触られ、しかも幸せそうな表情をあんなに間近で見られたものだから、嬉しかったのだ。


提出:手綱を握るその人


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左。
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