ありふれた大切なこと

次屋×富松
*年齢操作+1





学園生活も四年目に入ったあるとき、ふと思った。

自分は幸せなのだろうか、と。


人生を振り返るにはいささか早いような気はしたが、一度生まれた疑問の芽は俺自身の不安を栄養に、むくむくと成長していった。

人は本当に幸せなときほど、その姿には気付かないものだと言う。
ならば己の現在に絶対の安心を感じられない俺は、幸せなのだろうか。

友はいる。迷惑を掛けられることも、掛けることもどちらもあるが、大切な友人は既にいるのだ。彼らの幸せを願い、助けたいと思うのだ。
後輩にも恵まれているだろう。委員長だった尊敬していた先輩が卒業した今、委員会を纏めるのは俺の仕事だが、至らない俺を知っている彼らは俺の足を引っ張らないよう精一杯努力をしている(若干空回りなところはあるが)。可愛い後輩達だ。
勉学も良好。完璧とは言い難いが今までと変わりない成績を保てているので良しとする。
精神的安定は――。ああ、これか、不安の種は。

同じ部屋の、迷子二人。
もう上級生に数えられるまでになったというのに、この二人の迷子癖は治るどころか日々悪化、捜索係に実質任命されているような俺の疲労は溜まるばかり。
俺が今の生活に不安があるとすれば、これしかない。
しかし、難儀な問題である。
原因が俺自身でない上に、改善策も見当たらない、超難問。
迷子達は聞けと言うのに人の話は右から左、決断力のある方は間違いなく間違った方へ駆けていくし、自覚のない方はあくまでも自分は迷子じゃないと言い張る。

そして今日も、件の無自覚方向音痴が失踪したと連絡が入ったのだ。

「三之助ー」

あの二人を捜すのは経験と勘が大事なのである。
まさかこんなところには行かないだろうと高を括っているとそのまさかが現実となって結局自分の首を絞めることになるし、かといって虱潰しに捜して見付からないのに、半ば自棄で全く別のところを捜しているとひょっこり現れる、なんてこともあり、とにかく神経を擦り減らされるのである。
いつものこととは言え放って置く訳にも行かないし、こっちが半泣きで捜していたと言うのに本人はケロリとしているのである。まったくもって理不尽だ。

「おーい、どこにいるんだ」

がさがさと裏山の深いところを探し回る。体育委員会のマラソン途中に迷子になるなんて最悪のパターンだ(よくあることだが)。
あちこちに擦り傷を作り、土塗れになりながらも懸命に呼び掛けを続ける。
しかし望んだ返事は返って来ず、不安と苛立ちの混じった自分の声が小さくこだまするだけだった。


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