カカシ×サスケ(鳴門)





人を愛することなんてないと思っていた。

否、今でもそれは変わらない。

どんなに親しくなろうとも、越えさせない一線を自ら崩すことは有り得ない。
大切に思うものはある。
失いたくないものも。

だけどそれは愛とは違って、しかし一体なにが違うのか自分でも解らずに、人との距離を決めあぐねていた。
友は等しく大切だし、部下は等しく護りたい。仲間が死ぬのはやはり辛い。
誰が、なんてことはなく、誰もが、なのだ。
その枠から誰かがはみ出すことなど、有り得ないと思っていた。

なのに。

「カカシ」

歳には釣り合わない、感情を抑えた双眸がこちらを向いていた。
今は漆黒の瞳は間違いなく俺を映していて、反対に俺のそれは彼の姿を映している。
ただ、それだけのことに心を奪われた、なんて。

誰でもいい訳じゃない、強く誰かを望んだことがないだけだ。

無常に心を痛めるくらいなら、初めから望まなければいい。
希望も絶望もしなければ、世界はなんと穏やかなものか。
凪いだ水面のように何にも揺るがされず過ごし、そうして朽ち果てられたらなんと楽で、別れに涙することも相違に困惑することもない。それが正しい道だと知っていたはずなのに。

気が付けばお前の姿を追っていて、傍にいる口実を探していて、どこかに行ってしまわないか、心配していた。

その瞳が悲しみや憎悪や絶望に染まってしまわないか、俺以外の誰かに奪われてしまわないか……境界なんてとっくに越えている。

「サスケ」
「なんだよ」

思いの外情けない声にサスケは不審な色を浮かべる。その視線を、その心を、全部奪ってしまいたくなって。

抱きしめた。

「な、」

強く、強く。

相手の身長に合わせて屈んだから、吐息が近い。
心臓は早鐘を打っている。
驚きはあるらしいが、振り払われる様子はない。

愛しい。
理解出来なかった感情が自然と湧いた。

「サスケ、愛してるよ。大好き」
「なっ」

だからどこにも行かないで欲しい。道を違えないで欲しい。
幸せになって欲しい、願わくは俺と。

暫くの間固まっていたサスケは、返事の代わりに降ろしたままだった両腕で俺の背中を包み込んでくれた。その動きは、とてもぎこちなかった。
まったく、こんなときくらい素直になりなさいよ。

永遠などは望まないけれど

君と俺との視線の先が同じものを見ているなら、どうかいつまでも側にいて欲しい。


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