富松→?? *現パロ 手の平を太陽に、と小さな小さな声で唄う。 夕焼けに翳した手はまだ子供のもので、俺は今夢を見てるんだと気付いた。 いつの日かなんて覚えちゃいないが、確かに在ったいつかの日。 懐かしい、と思った。 子供時代が、じゃない。 もっと以前だ。ずっと以前。 この夢のような真っ赤な美しい夕日を、 いつの日かも知らないいつかの日、 誰かも知れない大切な人と見たんだ。 この歌とは違う歌を唄っていたかもしれないし、 歌は唄っていなかったかもしれないし、 俺は俺だったかもしれないし、 俺ではなかったかもしれない。 それすら覚えてないくらい以前のこと、あるいは、夢幻の出来事だったのかもしれないが。 だけどこの夢は、 この夕日は、 俺の心を震わせるだけの力を持っていた。 この夕焼けは苦しいものだ。 辛いものだったんだ。 夢の中の小さな俺は、燃えるような赤い日に涙していた。 夢を見ている俺もまた、涙していた。 あの時握っていた幼い手は、今はもう俺の隣にはいないから。 二度と離さないと誓ったはずなのに、過ぎてしまえばなんとたやすく離れてしまったんだろう、と記憶にのみ残る温もりを思い出す。 当たり前にあったはずの、姿。 それが誰だったのかは、思い出せない。 しかし、失った寂しさはしかとこの心に刻み付けられている。 もどかしくて、苦しくて、辛くて、悲しくて、温かくて――優しい。 あらゆる感情が入り混じった不思議な夕焼けは、とうとうその不安や憂鬱、僅かな希望の正体を見せないまま、ゆっくりと俺の前から姿を消してゆく。 次に視界に入った色は、見慣れたクリーム色の天井や、自室の風景だった。 なんてことはない、日常だ。 そうして悟る。 あれは紛れも無い事実で現実であると同時に、手に入れることは二度とできない、大切な思い出であることを。 あの小さな俺は、幸せだったのだろうか? 俺には、わからないけれど。 二度と離さぬと誓った小さなお前の大切な願いを、ついに叶えることは叶わなかったけれど。 せめてあのときの俺が、幸せであればいいのに。 頬を伝う涙を、そっと拭った。 未来より、願うこと 120506 [HOME] |