勘右衛門も呆れて帰ってしまう、そう予想していた三郎だが、 「大丈夫だって。何かあったら俺達が守るよ」 予想に反して、勘右衛門は笑顔のままだった。 (嫌われて、ない?) 嫌な顔をしない勘右衛門の言葉は、少なからず三郎を安心させた。 そうだ、勘右衛門も八左ヱ門も男なんだから、ゲーセンに行っても危なくない? 雷蔵の心配はまさに、その“男”であるところにあったのだが、残念ながらその意図は三郎には伝わっていなかった。 「ホラ、それに、兵助もくるって」 先程から仏頂面で突っ立っている兵助を、親指で示す。 「は、俺は行くなんて一言も…」 勘右衛門の急な振りに否定の言葉を重ねるが、それが終わる前にひじ鉄を食らわされた。 「なあ、協力してくれよ」 三郎には聞こえないように、そっと耳打ちされる。ねだるような声に、兵助は、こいつ狡いやつだな、と思った。 協力、とは以前勘右衛門に三郎への想いを打ち明けられたことによる。べつに、兵助が好んで尋ねたわけでもないし、また進んで協力したいとも思わないのだが……。 (人の恋愛沙汰には首は突っ込みたくないんだけど…) とりわけ、彼等の恋愛模様は複雑そうだ。隣で放置を食らっている八左ヱ門もおそらく同様に思っていることだろうが、彼もまた、協力者なのだろう。表情がどことなく、苦い気がする。 それは置いといて、ちらりと三郎を見る。10年以上の付き合いになる幼なじみは、同じく兵助を見ていて、その瞳は好奇の色を宿していた。 (本当、策士だなぁ) 三郎のこんな顔を見せられたら、断りにくいじゃないか。 不憫な少女は好きな相手と好きな場所で遊ぶことも許されなかった。 そのことを誰よりよく知る兵助は、その願いを叶えてあげたい気になってしまう。 それらを見越した上でこの状況を作り出したと言うなら、勘右衛門という男は相当な策士だろう。 兵助は、ため息をひとつ落とした。それだけで、三郎の瞳が輝く。 「雷蔵には、ちゃんと俺も一緒だって言い忘れるなよ」 「うん!」 唯一、三郎と遊ぶことに雷蔵の許可が下りているのが、兵助だ。一緒にいるのが勘右衛門だとバレれば怒られることに違いないだろうが、背に腹は代えられない。 天秤は雷蔵に怒られることよりも三郎の笑顔の方に、若干傾いたのだ。 (まあ、手出しはさせないけど) そんなことをさせれば、間違いなく兵助はあの世行きだ。死ぬのはせめて、豆腐をたらふく食べたあとにしたかった。 120504 前 [HOME] |