尾浜→鉢屋♀と久々知と竹谷





「鉢屋、今日一緒に遊ばない?」

放課後、教科書やペンケースを鞄にしまっていると、後ろから声をかけられた。
三郎が振り向くと、同じクラスの勘右衛門が笑顔で立っていた。鞄は既に肩にかけられている、早業だ。

「尾浜と?」

三郎は、誘いの真意がわからなくて首を傾げる。
確かにクラスメートだし、友達ではあるが遊びに行くほど仲がいいわけでもない。何より、勘右衛門は男で、三郎は女だ。一緒に遊んで楽しいとも、あまり思えない。
鋭い者ならなぜ勘右衛門が誘ったのか見当がつくだろうが、あいにく三郎は鋭い部類ではなかった。

「そ。竹谷もいるよ」

勘右衛門が教室の外に視線を遣り、三郎もつられてそちらを見ると、ちょうど八左ヱ門と兵助がやってきたところだった。
三郎と勘右衛門を見つけ、手を振って近づいて来る。
どうやら本当らしい。

勘右衛門の真意がわからないこともあったが、三郎にとってはもっと大事なことがあった。

「雷蔵は?」

廊下を見るも、雷蔵の気配はない。

三郎の双子の兄である雷蔵は、三郎がどこかに遊びに行こうとすると、必ず誰と、と聞くのだ。そして、三郎の経験上相手が男なら99%雷蔵はダメだと言われる。残りの1%はたった一人、幼なじみの兵助を指す。
勘右衛門が誘いをかけたことが雷蔵公認なら、三郎も断らなくてすむ。

「雷蔵は委員会」

淡々とした口調で、兵助が答えた。
ああ、そういえば。

いつものことなのに、三郎はすっかり失念していた。大好きな雷蔵のことを忘れていたことに、ショックを受ける。

「あれ、じゃあ尾浜も委員会じゃ…」

雷蔵と勘右衛門は同じ生徒会所属だ。雷蔵だけ委員会があるわけじゃないだろう。

「サボり」

にっこりと、本当に楽しそうに勘右衛門は笑った。

(あ、こいつ悪いやつだ)

三郎は決して頭の良い世渡り上手ではなかったから、上手い言葉を紡ぐことは出来なかったけれど、直感的に勘右衛門がずる賢いことは理解できた。
だから、勘右衛門がこうしている間も大好きな雷蔵が真面目に委員会へと足を向けていると思えば、若干腹が立ちもした。

「ね、ゲーセン行くんだけど、どう?」

悪戯っ子の笑みを浮かべて、勘右衛門は誘う。
ゲーセン。三郎の心がウズウズと踊り出す。
一度は行ってみたかったものの、男友達と遊ぶことは許されなかったし、三郎には女友達が少なかった。雷蔵におねだりしてみても、危ないからと言って連れて行ってもらえなかった。

「でも……雷蔵が」

行きたい気持ちはあるが、雷蔵の許可なく行くのは気が引ける。

ふう、と勘右衛門がため息を吐く。
面倒なやつだと思われただろうか。
他の男友達はそうだった。
雷蔵の名前を出すとみんな嫌そうな顔をして、最後には三郎から離れて行ってしまう。
自分でも、いつまでも雷蔵を引き合いに出すのは間違ってるとは思う。だが、嘘を吐いたり黙って遊びに行ったりすれば、雷蔵が傷つく。だから、三郎はいまだ雷蔵離れが出来ないでいる。
本当のところは、三郎より雷蔵に問題があるのだが、やはり鈍感な三郎は気づかないでいた。




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