「あ、雪…」 「うっわ、どおりで寒ぃ訳だよ…」 「もっと喜べよ。ロマンのわからない人だな」 「お前は女かっつーの」 いや、やれクリスマスだロマンだと、いまどき女性でもそんな夢見がちはいまい。 「さぁ、こんなとこに突っ立ってたら風邪をひきます。行きましょう」 「は? どこに」 これから帰って寝る気満々だった富松は、池田の提案に素っ頓狂な声を上げる。 「え、何その反応。この人マジで有り得ない」 「有り得ないのはてめーだろ。いきなりやってきて俺の予定を乱すな」 「は、あぁ!? 寒空の下待っていた恋人に対する言葉ですか、それ」 「頼んでねぇし。いちいち押し付けがましいんだよ」 そうして、いつものように言い合いが始まる。じゃれ合いともとれるが、なにも聖夜にまで努めることはないだろう。 一通り文句を言い合ったあと、沈黙が訪れる。しばしの見詰め合い。空気は更に冷え冷えとしはじめ、体温を奪う。ぶるりと一つ身震いをした。 「……わりぃな、その」 見詰め合うのは気恥ずかしくて、意味もなく黒い空へと視線を逸らす。 深々と白い粒を降らせる空は、なるほど確かに神秘的だった。 今日はクリスマスだ。こんな日くらい、少々素直になったって罰は当たるまい。 「こんな俺に付き合ってくれて、その…ありがとよ」 小さな小さな呟きは、静かに降り積もる雪に掻き消されることなく、相手に伝わる。 しばしきょとんとした男は、その次には顔を真っ赤にし、喜びの涙すらうっすらと浮かべていた。 遠回しではあるが、彼にとっては最上級の愛情表現なのだ。 何故なら、呟いた富松もまた、顔を真っ赤に染め上げていたから。 silent night ←前 [HOME] |