池田×富松
*現パロ





「なぁ池田。おめーよ、ちったぁ気ぃ遣うとかできねぇの」

チラチラと降り始めた雪を視界の端に入れつつ、富松は前を歩く池田に話し掛けた。
バイト先まで押しかけてきたこの男は、朝から先刻まで働いていた富松に労いの言葉を掛けこそすれ、解放する気はないらしい。

「気ぃ遣えないのはどっちだよ…」

ぼそっと吐かれた、不機嫌さを隠そうともしない一言。
池田曰く、クリスマスは恋人である富松と過ごしたかったらしいが、あいにく富松はそんな浮かれた行事よりも仕事の方が大事で、池田の願いを一蹴し丸一日仕事を入れていたのだ。
人手も足りないし、絶好の稼ぎどきである。仕方ない話だった。
クリスマスのプランをあれこれ幸せそうに語りだした池田に「あ、わり、バイト入れてるわ」と言ったときの表情ったら、なかった。さすがの富松も悪いことをしたとは思ったが、しかし今更仕事を断るとも言えないし、言うつもりもなかったのだが。
恋人だろうと行動の制限まではできまいとの言い訳を、絶望と言うか、半ば憎しみすら抱いていそうな瞳で池田は聞いていた。
最後に「わかりました」と一言だけ呟いて、富松の部屋を後にした。以来、クリスマス当日までメールの一つも寄越さなかった(普段の無意味なメールもなくなった)ので、すっかり諦めはついているものと思っていた。

そして、この結果だ。
閉店後の片付けをし、日付を越えた頃店の鍵を閉めていると、鼻を真っ赤にした池田が外にいたのだ。

「…なにやってんの」
「アンタ、遅すぎ」

白い息と共に吐かれた言葉は震えている。
一体何時間待っていたのか。

「馬鹿じゃねぇの」
「それは、アンタでしょう。クリスマスに普通仕事入れるか、普通」
「しつこいっつーの。だからって待ってるか? いつ終わるかもわかんねぇのに」
「日付変わったじゃないですか」
「噛み合ってねぇし」

はぁ、と白い息を吐く。
それほど、富松とクリスマスを過ごしたかったのか。呆れる反面、少し、嬉しくもあった。


後→


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