不破×鉢屋 “雷蔵、虹が綺麗だよ。” むっとする雨上がりのにおいを吸い込んで、空に掛かった大きな橋を見上げた。 目の前を歩く背中は、近いはずなのに何故か遠く感じて、私は喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。 口に出す代わりに、脳に焼き付ける。 この背中、このにおい、この季節、この時間、この気持ち、ぜんぶを。 また、いつか見ることができるだろうか。 この光景を。 そのときは美しいと感じるだろうか。 愛おしいと思えるだろうか。 今みたいに、心をいっぱいに満たすことができるだろうか。 そして。 そのときの背中は、雷蔵、君なんだろうか。 願わくは君であってほしいな。 叶わないけれど。 “三郎、虹が出てるよ。きれいだね。” “ああ、本当にね、雷蔵。” 虹 [HOME] |