久々知×鉢屋





「お前は本当に自己満足の強い男だな」

白く滑らかな豆腐を一片匙で掬い、その冷たく柔らかな豆腐を一片口に運んだその時、同じ学年の隣の組の、鉢屋三郎が不躾なことを言ってきた。

「……いきなり、意味がわからん」

久々知兵助は己の至福の時間である昼食を、訳のわからない言い掛かりで邪魔された苛立ちを隠そうともせずに相手を睨みつけた。

「意味はない。ただ、そう思っただけさ」

鉢屋は反論されたことこそが気に食わないといった不機嫌な顔で言い返し、そのまま立ち去ればいいものを何を思ったか、久々知の前に腰を下ろした。

「お前は、本当に自己満足でしか、ない」

言うことは先程と変わらず、ある種憎しみすら篭った瞳で久々知を見るのだった。
久々知は無言のまま鉢屋の視線を同じもので受け止めながらも、豆腐を掬う手は止めない。

端から見ればさぞ険悪な二人に映ったことだろうが、この二人の関係を知った者からすればいつもの光景であり、尚且つ全く理解の出来ないやり取りでもあった。
何故、恋人同士でこうまで剣呑な雰囲気を作り出すんだろうか、と。

「おい、兵助。何か言い返したらどうなんだ」

声音はあくまで低く、静かに、しかし表情は今にも噛み付きそうなくらいの怒りを宿らせている。
久々知は真四角だった豆腐の、とうとう最後の一片を大事に大事に口に含み、よぉく味わい喉に通したあと、ようやく言葉を発するために口を開いた。

「なら、お前はひどく嫉妬深い男だな、三郎」

同じくらい静かな声音で、しかし久々知はまったくの穏やかな無表情で言う。
鉢屋は不愉快二割増しといったしわを眉間に寄せた。

「……自己満足よりマシだ」
「似たようなものだろう」

久々知はそれだけ言うと席を立ち、食器を返却しに行く。鉢屋は機嫌を直した様子もないのに、そのあとを追う。
二人が姿を消したあとの食堂には、やはり微妙な空気が漂っていた。
まったく理解できない変人たちの痴話喧嘩に。

理解して欲しいとも思わない

世界なんて、私とお前がいればそれでいいのさ。

俺は豆腐も欲しいな。

……。


ほら、また嫉妬する。


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