富松→浦風
*成長、死ネタ





あれはいつの記憶だったか。

毎度よろしく迷子どもを捜し、捜し疲れてへたり込んでいると頭上から声がした。

見上げると藤内が「作兵衛大丈夫か?」と、心配そうにしていた。
がむしゃらに走り回ったせいでボロボロの俺とは対照的な、綺麗で繊細な手を差し伸べてくれたんだ。
どこまでも澄んだ笑顔がなんだか眩しくて。日の光のせいにして、気付かない振りをした。

「大丈夫だ」と笑って、汚してしまうのが惜しくて少し躊躇って、その手を掴んだ。
想像よりしっかりした手はそれでも繋ぎ慣れた奴らより柔らかくて、何故かドキドキした。

今思えば俺は恋をしていたんだろう。

藤内は俺にとって、とても綺麗で眩しい存在だった。
三之助や左門にするみたいな軽口を叩くこともあったけど、どんなときでも俺は藤内に憧れてた。

こう言ったら嫌われるかな、どうしたら笑ってくれるかな、とかいつでも気になっていて、その癖原因にはこれっぽっちも気付かなかったなんてどれだけ鈍感なのか。三之助に呆れている場合じゃないだろう。
藤内の一挙一動に一喜一憂してた。きっと三之助なんかは俺より先に気付いてたんだろうなぁ。教えてくれれば良かったのに、と一人苦笑する。

あの頃は全てが輝いていた。比喩なんかじゃなく。
当時億劫だった迷子捜索すら、今となってはいい思い出だ。
あそこで過ごした六年は、長いようで短かった。
ずっとあの暖かい場所にいたかった。

藤内に笑っててほしかった。
隣でなくていいから。
手なんか繋げなくてもいいから。
少し影のある表情が好きだった。
とても真面目なところを尊敬していた。
いつも、触れたいと思ってた。


だけど叶わない。

それらは全て甘い、遠い記憶に過ぎない。

俺は時に流されて流されて、流れの中でいくつも失い、あるいは手に入れてきた。
手に残った数少ないものも、取り零してしまった沢山のものも、どちらも大切なものに違いなかった。

ふと、傷だらけでボロボロで、汚れてしまった自分の手を見て、あの綺麗な手を思い出した。

大好きだったあの日の記憶は今でも俺の手の中に残っているけれど、あの綺麗な手の持ち主はもう、なくしてしまったんだ。

あのときの手を離さなければ後悔せずに済んだんだろうか。



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