次屋×鉢屋





「……君どこ行くの」

真夜中、鉢屋は鍛練のため裏裏裏…とにかく深い山に行く途中、ふらふら彷徨う下級生を見付けた。
予習の好きな彼や良く虫を逃がす彼、迷子捜索の彼だったなら大して気にもしなかっただろうが、何しろ無自覚な方向音痴と名高い彼を見付けてしまったのだから放っておけるはずもない。
とは言っても親切に道を正すだけでは詰まらないし、噂の方向音痴がどんなものか見てみたかったのもある。鉢屋はてくてく歩いていく次屋の後を音もなく付いて行った。

本当は見物するだけのつもりだったのに、次屋があまりに何の躊躇いもなくしかも平地を歩くみたいにごく普通に山の中を行くものだから、怖くなってしまって思わず声を掛けてしまったのだ。

「……? あ、鉢屋先輩。長屋ですけど」

次屋は、突如暗闇から現れた上級生にさして驚いた様子も見せず、またなんの戸惑いもなく平然と言い放った。
さすが無自覚方向音痴。伊達じゃない。

「へぇ、次屋君の部屋は大自然の中にあるのか。すごいなぁ!」

「……おっしゃる意味がわかりませんが」

平坦な態度を崩さない次屋に皮肉をぶつけてみるが、それもなんの意味もない。鉢屋の言動の真意がわからないと眉を訝しめるにとどまった。

「……富松君も苦労する訳だ」

昼行灯相手じゃあ大変だろう、あの保護者。
同情をすれど協力する気はないのだが。むしろかきまぜるのが鉢屋三郎、だろ?

「……?」

とは言ってもここは危険だ。こんな真夜中山奥に、三年生一人置いていく訳にも行かない。

「おいで、夜は危険だから。送ってあげよう」

親切心から鉢屋が手を差し延べると、次屋はその手を無感動な瞳で見詰めた後、首を横に振った。

「別に平気です」

「平気じゃないだろう、こんなところ上級生でも中々来ない」

まさか断られることは予想外だったので、鉢屋はむきになって声が大きくなる。

「……なんで鉢屋先輩はいるんですか」

対して次屋は静かな声で、本当に不思議そうに聞き返した。

「っ……!」

そんなの、君が心配だからじゃないか。



その言葉は零れる事無く



だってこんな片恋のような


この鉢屋三郎が馬鹿みたいじゃないか


下級生相手に、

くそ、面白くない。


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