竹谷+鉢屋(雷鉢)
年齢操作+1





俺達が入学して五度季節が巡った。

後少しでもう一度巡り、二度と学園での時を過ごせなくなる。

学園の外に出ると言うことはその後の身の振り方を決めなくてはならなくて、俺、竹谷八左ヱ門はと言うと至って平凡で堅気の商売人になるつもりだった。

元来殺生は好きではないし、万一知り合いと敵対でもしたら嫌だから、敢えて忍とは無関係の職を選んだ。

俺くらいの者なら掃いて捨てるほどいるから問題もない。

だが鉢屋三郎となると別だ。

天才と呼ばれるあいつなら欲しがる城は山ほどあるだろうし、フリーでも十分やっていけるだろう。

しかし嬉しい悲鳴のはずの当の本人は、未だ進路を決めていない状態だった。

天才の余裕だろうか、周りは焦り始めているのに三郎は呆けたように窓の外を眺めたりしているものだから、クラスにはいい顔をしない者もいた。


試しに俺が問うてみても、ああ、だのうん、だの曖昧な言葉しか返って来なかった。

「なぁ三郎。お前本当にこの先どうするんだよ? いい加減決めないと困るのはお前だぞ」

「ああ」

「お前の実力ならどこでもやっていけるだろうに、何を迷ってるんだ」

「うん」

同じ顔をしているからと言って、何も悪癖まで雷蔵に似せることはないだろう。

しかも本物の雷蔵は既に進路を決めているのだ。何を悩むと言うんだろうか。

「……雷蔵は、」

続かない会話に訪れた沈黙の後、ぽつりと三郎が呟いた。

「雷蔵は、私の事なんて嫌いなんだろうか」

「……は?」

久し振りに能動的に発言をしたかと思えば、なんだその疑問は。
三郎は酷く傷付いたみたいに情けない顔と、子犬か何かみたいな不安げな声をしていた。

「待て、待て、待て! 何がどうしてそうなるんだ!」

雷蔵が三郎を嫌い? 三郎の下らない悪戯で雷蔵が切れでもしない限りそんな事はないだろうし、雷蔵からもそんな話は聞いてなかった。

いや、もしかしてこの頃三郎がふさぎ込んでいたのはそんな被害妄想が原因だったのか?

全く以てこの天才の思考回路は理解できない。ふてぶてしさがお前の持ち味じゃないのか。

「……雷蔵と喧嘩でもしたのか?」

「いや、してない」

まさかと思い聞いてみたが、三郎は即座に否定した。

「じゃあなんで」

そんな風に考えたんだよ?

天才もとい変人の相手にいい加減疲れつつも、返答を促す。

三郎はいよいよ情けなくも涙を浮かべ、突飛な事を言い出した。

「だって雷蔵は一人で進路を決めたじゃないか!」

……。俺は初め三郎の発言を理解出来なかった。
いや、理解したくもなかった。

「それはつまり……」

無駄に付き合いの長いこの変人の言葉を解説すると、

『雷蔵と一緒の道を進みたかったのに、雷蔵は一人で決めてしまったので私は嫌われてるんじゃないだろうか』

と言う事なんだろう。
雷蔵もいい迷惑だ。進路くらい一人で決めたいだろうし、三郎も他人に左右されるな。

三郎はとうとう泣き出してしまい(悪酔いでもしてるんじゃないだろうか)、これ以上ややこしくなるのも面倒なので、事の根源(?)である雷蔵を呼びに行く事にした。

雷蔵が言えば三郎だって目を覚ますだろう。

そう思ったのに。

俺が甘かったのか、それ以上に二人が強者だったのか。

「寂しがらせてごめんね、三郎」

「いいんだ、全然!」

今までの憂鬱はどこへ行ったのか、花まで飛ばしそうなほど上機嫌の三郎と、同じくらい幸せそうな雷蔵がいた。


事のあらましを話した後雷蔵ははっとした様子で三郎の元へ行き、さめざめと泣いていた三郎に口付けを落とすと共にこう言ったのだ。

「ごめんね、三郎。僕一人で決めちゃって。そりゃあお前も一緒に決めたかったよね。僕としては三郎の気持ちも汲んだつもりだったんだけど」

「雷蔵……」

「三郎とは平穏に暮らしたかったから忍にはなりたくなかったんだけど、三郎がそっちがいいならそうするよ?」

「……私の事、見捨てないのか?」

「馬鹿だなぁ、そんな事する訳ないじゃないか。僕たちはいつまでも一緒なんだから」

「雷蔵っ……!」

その後はまあどうでもいいが、当然の如く同じ道を進んだ二人は、プロの忍になったともラブラブの夫婦になったとも言われている。

そんな締め方にする。

心配した俺の優しさを返せ、などと抗議するのも馬鹿らしいオチだ。
もう終われ。


川は違えど道は交じる


[HOME]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -