次屋
*暗い/死ネタ





しんと冷えた闇の中、木々の間を走り抜ける影が、ぴたりと足を止めた。

白い息を吐いているがその体は熱く、しかし脳は闇と同じく冷えきっていた。
そっと瞼を下ろすと自分の血潮と鼓動がよく聞こえた。

生きている。

三之助は鼓動を幾つか数えて確認する。
ゆっくりと開けた視界には大したものは映らなかった。
暗闇に溶け込んだ自分の両の手を見詰めると、見えるはずのない赤が見えた気がした。


殺したのだ。
自分が。

この手で。
人を。


人の殺し方なんて、嫌というほど授業で習った。


だけど、こんな。

あんな。


自分の命がかかっていると、人は驚くほど冷酷になれるものだ。


ほんの半日前は友と笑い合っていたというのに、遠い過去の出来事に思えた。


はは。


正確に、急所を一突き。
簡単だった。


想像よりも簡単に人は死ぬものなんだなぁ。

鼻腔をくすぐる鉄の臭いが、現実を教えてくる。

もう、戻れないのだと。

知ってしまったこの暗闇からは、決して逃れられないのだと。


大好きな友達の顔を一人一人、思い出す。


自分は、今日もまた笑うだろう。

笑うんだろう。
昨日までは考えもしなかった気持ちを隠して、殺して。

きっと皆そうなんだろう。


見ない振り、気付かない振り。そうして大人になるんだ。



手で目隠し

背けて、否定。
いつかきっと、生きていることすらわからなくなる。


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