鉢屋 *死ネタ 目の前に私と同じ人が転がっていた。 雷蔵は死んでしまったのか。 私はただ、呆けたようにその死体を見下ろしていた。 心は乾いてなんにもないというのに、頬は熱い涙で湿っていた。 世界が、思考が、麻痺したみたいに白かった。 どこかもわからない真白い空間に、私一人だった。 音さえなかった。 感覚さえ、滴り落ちる雫の熱しか感じられなかった。 両の目だけでなく、左胸の臓器からも雫は溢れていた。 立ち尽くす私からも、目の前の死に絶えた雷蔵からも、赤い雫は流れていた。 そうだ、私が殺したのだ。 私が殺した。 (誰を) 私が。 私 を。 私を殺したのだ。 では目の前にいる雷蔵は誰なのだろう。 私だろうか。 あれが私なら、立ち尽くすこの雷蔵は誰なのだ。 私だろうか。 ……しばらく考えて、「同じ」なのだからどちらでもいいのだと気付いて、納得した。 そうだ。 私は雷蔵と一つなのだから、同じことだ。 私は雷蔵で雷蔵は雷蔵で、これは私で私も私なのだから、何も問題はなかった。 これが私の幸せなのだから。 後悔などあるはずもない。 彼の望んだ楽天地 死者は振り返らず 生者は振り切れず その距離は永劫の零。 [HOME] |