池田×富松(池田→富松→?)
※年齢操作+3/ほんのりいかがわしい





話があると呼ばれた池田の部屋。
富松は、真剣な面持ちで正座する池田の正面に、同じように腰を下ろした。

相談事かと思うが、富松と池田はそれ程親しい訳でもない。むしろ顔を見れば嫌味ばかりで応じられるし、そういう態度が富松は不愉快だった。

それこそ、悩みなら今はいない同室の友人にするだろう。

明るい話ではないことは、この部屋を占める空気で想像できる。

池田は黙ったままだった。

硬い表情で富松に目を合わせようとせず、畳を見詰めて無言のままだ。

「……話ってなんだよ」

終わる気配のない沈黙に、痺れを切らして口を開いたのは富松だった。
その言葉がきっかけだったように、池田は視線をす、と動かした。
非難するような、懇願するような瞳とかち合う。
それに気を取られ次の瞬間、何が起こったのか分からなかった。

押し倒されたのだと気づいたのは、仰いだ天井と畳の湿り気が背中に届いてからだった。

殴られるのかと、反射的に顔を背けて目を瞑る。
しかし、いつまで経っても拳は振り下ろされなかった。

代わりに、そっと開いた視界に映ったのは濡れたような、熱い瞳だった。
その視線と真っ向から向かい合って、何故か心がざわめいた。

吐息が近い。
鼓動が、聞こえてしまいそうだ。
頭に血が上る音が、煩い。
それなのに、周りの世界は無音だった。

富松は、獰猛な色を含んだ視線から逃れることが出来なかった。

「どけよ……」

声が震える。

初めて見る後輩の姿に、心がじくじくと痛んだ。
なんだこれ。
こんな気持ち、知らない。


否、知りたくない。



ゆるりと胸板を押し返す手を、掴まれ床に縫い付けられた。

と同時に合わせられた唇。

熱かった。
見詰める瞳と同じくらい、貪るような口づけは熱くて。


これは恐怖、だ。
恐らく。

そう、こんなに距離が近くて、境界線なんて見えなくて、心も体も全てが暴かれそうで、怖かった。

「やめろよっ……」

腕に力を入れて抵抗するも、体勢上の不利は覆せなかった。

いつの間にこんなに成長したのだろうか。
ついこの間まではほんの小さな子供だったような気がするのに、だが確かに今自分を組み伏すのは、その面影を残す男なのだ。

「俺はずっとあんたのことばかり見てたのにっ……、あんたはちっとも俺の方を見てくれなかった……!」

およそ子供らしくない切なさを宿したまま、池田は掠れた声を絞り出した。

「どんな気持ちであんたに焦がれてたか、……あんたの視線が俺に向けば良いのに、って……」

ぱたと頬に落ちた雫は、熱かった。

何故か胸が苦しくなった。

「どんなに焦がれて、手を伸ばしても、あんたは俺を見ちゃくれないんだ……」

だったら。池田はそこで言葉を切り、富松の首筋に噛み付いた。

優しく。



「だったら、せめて……一度だけでいいから。……あんたの温もりを感じさせてくれよ……」


抵抗なんて、とうに止めていた。

拒まないのは、同情か、背徳か。



それとも……。



気付いた時にはもう遅い

逸らせない。

逃げられない。


091228


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