次屋と鉢屋
*現パロ





「次屋君? 何やってんの?」
「………はちやせんぱい」

いつも茫とした表情の彼が、一瞬の空白の後、にこと破顔した。

「なんでもないっすよ」

何事か話していた恐らく彼の同級生の女の子は、失礼なことに俺の顔を見るなりそそくさと去って行った。

「友達?」

俺の質問に次屋は首の動き一つで肯定し、何話してたのと言う質問には視線一つではぐらかした。

「次屋君って絶対たらしだろ」

しかも無自覚の。この若さでそれなんだから空恐ろしい。

「俺は一途ですよ」
「マジで? 好きな子いるんだ」
「まぁ」

否定しないのか。
なんとなくショックなのはなんでだろう。
たぶん、彼の俗世に無関心な態度が好ましかったからなんだろう。
しかし、次屋君だって人間なんだ、恋の一つだってするんだろう。
もしかしたら、さっきの女の子が好きなのかもしれない。もしくは、彼女かも。
…無粋な想像はほどほどにしておこう。

「……先輩は」
「は?」
「好きな人、いるんすか」

無感動な瞳が、真っすぐに俺を射抜く。何を言いたいのか全く読めない、だけど逸らすことも出来ない、強い視線だった。

「俺は……」

彼が俺のことに興味を持つなんて、意外だった。
誰にも興味を持たず、自身にすら無関心。それが次屋君のスタイルだと思っていたから、俺は戸惑ってしまった。
中々質問に答えることが出来なくて、ようやく絞り出した声は「さぁ……」と曖昧なものだった。

次屋君も十分な沈黙を守ってから、相変わらず詰まらなさそうな顔で「そうですか」とだけ返した。

そして、小さく頭を下げてから、すたすたと歩き出した。
だるそうな後ろ姿を見詰める。

(なん、なんだろう……)

なんとなく、胸の辺りがすっきりしないような気がする。
何に対してなのかわからないが、俺は今の次屋君とのやり取りが気に入らないらしい。

虚しいような寂しいような、正体不明の気持ちを奥に押し込めて、次屋君とは逆の方向へと足を向けた。


産声をあげたそれは、
title:Aコース

すぐに忘れてしまうくらい、小さな感情だった。


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