「うーん」 「どうしたんだい、雷蔵」 「ああ、三郎か。いや、少し悩みごとがあって、困ってるんだ」 「へぇ、悩みごとが。雷蔵、君は幸せだな」 「からかうなよ。それとも、なにか? 悩むことが幸せだとでも? 決断力がある者にはわからないのかな」 「違う、そうじゃない。私にだって悩みはある。ただ、悩みが明確であることが羨ましいのさ」 「どういうことだ?」 「私は、自分がなにに悩んでいるのか、わからなくなることがある。ただ、漠然とした悩みはあるものの、その正体を掴めないでいるんだ。これじゃあ解決のしようがないのさ」 「そういうものなのかい? それは、不自由なことだ」 「だろう? だから私は、悩みが多くとも明確な君が羨ましい」 「なるほどね。だけど、やはり僕からしてみれば、悩みは少ない方がいいな」 「結局、ないものねだり、ということか」 12.05.22 20 [HOME] |