「次。…ってこれ、なんで魚側の書いてん。男は板前の気持ち書くんやろ」 「だって板前やったら“切る!”で終わってまうねんもん」 「そっちの方がおもろかったんちゃいます? 結果は初体験のときの心境ですよ。“おうおう、兄さん、新人さんかい? いや、見たらわかんで、手が震えとる。…心配せんでもええよ。ここには俺と兄さんの二人だけや。なんにも怖がることはない。どんと構えとれ、男やろ! ……なァに、実は俺も初めてやさかい。緊張すんのはお互い様や。だから、ええんやで。恥ずかしいこともない。俺は、誰にも言うたりせえへんで。この胸にしまったまま、安らかに眠りにつくさかいな。なに、泣いとんのか? フ……初めてが兄さんでよかったわ。ほなな。”……さっきから思とったんですけど、なんで口調が芝居がかっとるんすか?」 「任侠な魚を目指してん」 「いや、初体験のときこんなこという奴、本気で引きますよ」 「でもええこと言ってんねんで、この魚」 「言うシーン間違えてますわ」 「で、次は? へぇ、座る席でその人のことどう思てるかわかるんか」 「ねぇユウジ先輩。これ、“異性”の名前書くて知ってました?」 「思い浮かばない場合は同性でもいいって書いてあった」 「でも全部同性はないすわ。ドン引きっすわ」 「一番大切、好きな人は小春! 当然やな」 「普通過ぎておもんないっすわ。つかここ左隣りの人でしょ? 左利きのユウジ先輩と右利きの小春先輩やったら腕当たりますやん。なんで左利きの人置かへんのですか」 「決まっとるやろ。食事中、腕がぶつかるアクシデントを体験したいんや」 「…そっすか。でもあれですよ。小春先輩右にしたら手を繋ぎながら食事できるんですよ? そっちの方がええんちゃいます?」 「はっ! それもそうや! ……でも左隣りが一番大切な人なら、やっぱ小春は左やあ」 「……ちっ」 「え、なに、この子今舌打ちした?」 「空耳やろ。好きではないけどキープしておきたい人、白石部長。異性として見ていない人、金ちゃん。……うわ、生々し過ぎてキモいんすけど」 「だから、その白い目ぇやめろって。なんべんも言うけど、う・ら・な・い!」 「信頼してる人、千歳さん。あなたに気がある人、謙也さん。うーわ、ホンマリアルやわぁ」 「なにが? なにをそんなに一人で納得しとんの」 「ホンマに有りそうでキモいんすわ。って、あれ? …俺の名前は?」 「……あッ、忘れとった」 「………は?」 「いや、フツーに。悪気はないんやで。……え、なに。財前なんでそんな顔しとんの? 怖いで」 「……………はあぁ〜。いや、マジで有り得へんわ、この人」 「ひ、ヒカルく〜ん。そんなふっかいため息吐かんとってぇな。…マジギレ?」 「マジギレっすわ。……俺がなんのために、先輩にこの心理テストやらせたと思います?」 「俺をこき下ろすためやろ。今までのくだり、そうとしか思えへんかったで」 「違うわど阿呆ぉ! ……俺は、アンタにとって俺がどんな存在か知りたかったんや。左隣り…小春先輩の位置は無理でも、正面やとかその左…キープでも構わん。右隣りの謙也さん枠ならおあつらえや。金ちゃんの位置じゃなければなんだって構わんかったのに。……それ以下とか、有り得へんやろ。忘れてるとか…ホンマ……」 「…えっと、ヒカルくん。大変落ち込んでられるところ申し訳ない。一つ聞いてもええ? ……キミ、俺のこと好きなん」 「当たり前やないすか。今までの話聞いてましたか。…チッ。ホンマ有り得へんわぁ」 「俺を貶したい気はあっても、そっちの気があるとは到底思えへんかったわぁ。大どんでん返しすぎるでぇ、ヒカルくん」 「アンタはアホですか。そもそも気がなかったら、男同士で心理テストなんかしませんわ」 「って、そーゆうオチかーい!」 「「もーえーわ」」 前 [HOME] |