財前とユウジ *暗い話 財前に電話で呼び出された。 それは突然の連絡で、面倒だったが妙に切迫した声だったので、心配になった。 暗くなり始めた夕刻。公園には誰もいない。 「ユウジ先輩」 「っ!?」 言葉とともに、後ろから抱きすくめられた。 いや、抱きすくめられたなんてそんな優しい表現じゃなく、首を絞めるかのように喉元に腕を回されている。空いている方の手は声を出そうとする俺の口を塞いでしまった。 突然のことに飛び出そうになった悲鳴は、くぐもった呻きにしかならなかった。 「っ、むぅっ……!」 絡み付く腕を振りほどこうとするけれど、相手は力加減もしないしそもそもの体勢が不利だからバタバタと暴れるだけで、振りほどけない。 ちらと視界の端に入ったピアスと黒髪、何よりそのにおいが犯人が誰であるか、物語っている。 知り合いということで少しほっとするが、込められた力の強さに逆にぞっとする。 財前の右腕はがっちり俺の首を絞めて、左手は口を覆っている。 本気の殺意を感じて、抵抗を強める。 ギリギリと音でもしそうな右腕を、引きはがそうと両手に力をこめる。 俺も財前も本気で揉み合う。 財前は俺を絞め殺そうとして。 俺は財前を振りほどこうとして。 地面に転がって転がって、財前は俺に馬乗り。 お互い泥だらけ。 今度は両手で口と鼻を塞がれる。 その手を剥がそうとするけれど、酸素が足りない。力が出ない。 あ、あ。 軽く、意識が飛びそうになる。 力が抜ける。 俺の腕がゴトリと地面に落ちて、それから辺りは静寂に包まれる(俺の呻きもなくなったから)。 聞こえるのは、財前の荒い息遣いだけ。 財前の手の力が緩められた。 ゆっくりと俺の顔から剥がれた両の手は、今度は俺の顔を挟むみたいに地面に伸ばされた。 ヂャリ、砂を掴む音が耳のそばで聞こえる。 ようやく息をすることを許された俺は、貪るように酸素を吸う。目の端からは生理的な涙が零れる。 生きてる。 息、してる。 「はぁっ、はぁっ……あっ、かはッ…」 唾液が気管に入って咳込む。 しかし、馬乗りにされているので上手に咳もできなくて、余計苦しくなった。 涙ぐむ俺を尻目に財前は退きもせず、それどころか覆いかぶさってきた。 耳元に財前の息がかかる。 「ごめん、先輩…」 掠れた声で絞り出すように言う。 「好き、やねん。…アンタのことが」 (殺したいくらいに) 至近距離で囁かれた言葉に寒気を感じながら、俺は今日が4月1日だということに気が付いた。 エイプリルフール これが冗談なら、よかったのに。 120401 あとがき [HOME] |