ユウジ→小春
*捏造ユウジ母親登場
(これの前の話)





日曜日。
昼前に起きて朝昼兼用のご飯を食べてたら、母親が洗い物をしにキッチンに来た。

「あれ、おかんいつもと違う?」

いつもより気合い入った化粧。久し振りに会う友達と昼飯を食べに出掛けるらしい。
気合いの入りようも違うけど、なんか、もっと。

「あ、口紅がちゃうんか」
「そうやねん。よおわかったな、ユウくん」
「ユウくんゆうなや。いつもより明るくてええんちゃう? なんか春っぽい」
「やろ? 春の新色やねん。ちょっと子供っぽいことない?」

おとんがデザイナーだからか、おかんも化粧とかファッションとかに敏感で、俺も自然と興味を持つようになった。
もちろん、自分ですることに興味はない。

「うーん。せやなぁ。小春に似合いそうやなぁ」

明るい赤の口紅。苺みたいだ。
小春に似合いそう。

おかんが新しく買った服とか化粧品とか、小春だったらどうだろう、とすぐに妄想してしまう。
まあ、小春だったらなんでも似合うという結論に落ち着くのだが。

「まぁた始まった。ユウくんの小春ちゃんの話! …ほんまに好きなんやなあ」

半分呆れながらも、おかんは優しく笑った。

「うん。めっちゃ好き」
「いつか紹介してな」

「うん。そうやなぁ…」

おかんは、小春が男ってことを知らない。
俺が男が好きだなんて、気づいてもいない。

普通に、女の子が好きだと思っているのだろう。

本当に、小春が女だったらって思うことがある。

自分の性癖を恥じるつもりはないけれど、この幸せそうな顔を歪めてしまうんじゃないかって思うと、少し胸が痛むのだ。

諦めて普通の女の子を好きになろうとしたけれど、無理だった。
小春しか好きになれない。

そんな自分に落ち込んだところで悲しいだけなので、俺は自分の気持ちに正直に生きることにした。

ごめんなさい。誰にともなく心の中で謝って、暗い気持ちにフタをした。


そうだ。
小春にこのリップをあげよう。

そんなことをしても、小春の性別が変わるわけじゃない。
親への言い訳にもならないけれど。


まるで自分への逃げ道を作るみたいに、俺はおかんになんて名前なん、と聞いていた。

小春ちゃんにあげるん、と茶化すように言われて。
自分の打算とか苦しさとか不安とかその他、汚いものは全部飲み込んで「うん」って頷いた。


ブルー・ストロベリー
120311


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