ユウジ→小春





「こーはるっ!」
「どうしたん、ユウくん。えらいご機嫌やなぁ」
「あんな、これ、小春にあげる」

そう言って、小さな包みを小春の手に握らせる。
身に覚えのない小春は、目をぱちくり。かわいい。

「ユウくん、なぁに、これ」
「開けてみて!」

手の平に収まる小さな包み紙を開くと、出てきたのは口紅。
わけがわからない小春は、更に首を傾げる。かわいい。

「どうしたん、これ。口紅やんね」
「うん。あんな、おとんの仕事の関係でもらったんやけど、おかん使わへんゆうたから」

本当は、自分の小遣いで買った。でも、そんなことを言ったら小春は受けとってくれないだろう。

「なんでアタシに?」
「だって、似合うって思ってん」

甘い甘い、苺みたいなリップ。
一目見たときから、小春に似合うって思った。

「小春みたいに綺麗で、かわいい色やねんで」
「アタシに?」

俺がにっこり笑うと、小春は吹き出した。笑うところちゃうで。

「ほんま、ユウくんって変な子やなぁ」
「変ちゃうで」

本当のことを言っただけ。
だけど、小春が笑ってくれるなら、変でもいい。

「あんな、小春。今度の日曜、遊びに行かへん?」
「うん、ええよ。どこ行きたいん?」
「小春の行きたいとこ! そんでな……このリップつけてきてほしいねん」

勇気を出して、聞いてみた。気持ち悪いって思われるだろうか。
だって小春には女装の趣味はないし。
こんなこと言って、嫌われただろうか。

でも、本当に似合うと思ったから。

「うん、ええよ」

しばらくの沈黙の後、小春はにっこりと笑って頷いた。

少しだけ困った顔もしたけれど、それでも頷いてくれた小春は、優しい。
春みたいだ。

ああ、絶対似合うだろうなぁ。


ストロベリー・リップに一目惚れ
title:Aコース


120311


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