謙也×ユウジ 俺には本当に、本当に大好きな人がいて、毎日毎日人の目も気にせず彼に引っ付いてた。 小春が俺の気持ちに応えてくれないことはわかりきっていて、それでも俺は小春が大好きで。 片思い上等、この恋を諦めるつもりはなかった。 小春に振られて泣いているとき、謙也はいつもそっと頭を撫でてくれた。 “小春が、小春が”っていう俺の一方通行なのろけ話や愚痴なんかも、いつも最後まで聞いてくれた。 思えば、この不毛な恋を続けてこられたのも、謙也が受け止めてくれてきたからだろう。 知らない間に、心の支えとなっていた。 いつもみたいに小春に振られて謙也に泣きついて、謙也も頭を撫でてくれていた。「そうか、そうか」って、優しい声で。 今日は特別打ちのめされていたから俺も慰めてほしくて、甘えるみたいに謙也の胸で泣きじゃくった。 最初は謙也は戸惑っていたけど、突きはねることもなく、優しく背中を叩いてくれた。 その手の温かさと優しさが嬉しくて。 「謙也のこと好きになった方がよかったわ」 なんて思わず言ってしまった。 もちろん、本心じゃない。俺が好きなのは、いつだって小春だけなのだから。 少し、弱音を吐きたかっただけ。 優しい謙也に甘えたかっただけ。 背中を叩いていた謙也の手がピタっと止まって、俺は謙也から引きはがされた。 キモいって思われた? とか一瞬思ったけど、謙也は俺の顔を覗き込んできた。 顔が、近い。 「ユウジ、今の、ホンマか!?」 「へ。…え、う、うん?」 謙也の顔があまりにも真剣で、思わず頷いてしまった。 俺の言葉を聞いた途端、謙也はぱぁっと明るい顔をして、そして俺を抱きしめた。 「えっ、ちょ、謙也っ?」 「うっそ、めっちゃ嬉しいんやけど!」 ぎゅうぎゅうと、馬鹿力で締め付けられる。 「け、謙也……苦しい」 「あっ、スマン! …ユウジ、大丈夫か?」 慌てて腕を緩めると、心配そうな顔で覗き込まれる。 大丈夫か、なんはお前の頭や、と思った。 「言うつもりはなかったんやけど、俺、お前が好きやねん」 謙也は隠すこともなく、率直に言った。 真っ直ぐ見詰められる。 いや、急過ぎる。 「好きって……お前、俺男やぞ」 「あほ、知ってるわ。…そんなん関係ないゆうてんの、ユウジやろ」 「せやけど…」 確かに、好きになるのに性別は関係ない。 でも、それは俺が変なんだと、特別なんだと理解している。 多く一般の人は、やっぱり異性を好きになるものなのだ。 そもそも、謙也が男が好きだなんて、聞いたことがない。 「そりゃ、そうや。俺が好きなんは男やなくてユウジなんやから」 聞いてみると、真剣な顔でそう答えた。 謙也は嘘を吐く奴じゃない。 だけど、突然の展開に脳が追いつかない。 「なあ、ユウジ。俺にせぇや。小春はもう諦め」 「いやや! 俺は小春が」 「せやけど、もう傷付くお前を見たないんや。……俺やったらユウジを幸せにしたる」 謙也はもう一度、俺を抱きしめた。 今度はいたわるように、優しく。 人の温もりだ。 俺のことを想ってくれる人の。 謙也が言うように小春を想い続けても、この温もりは手に入らないだろう。 だけど、俺は小春が好きで。好きすぎて、大好きで。 この想いは誰にも邪魔されないものだ。それは、俺自身であっても容易には触れられない、とても繊細な感情。 誰にも壊してほしくない。触れてほしくない部分。 諦めたら終わりという、一種の強迫とも言えるほどの思いは、本当に純粋な恋?逃げたい、逃げたくない。 相反する二つの感情は俺の思考を掻き乱して、ずっとたたらを踏んでいたみたいだったのに、突然フツっと糸が切れたみたいに断絶した。 逃げたかったのだろう。 雁字搦めに凝り固まった、狂気じみた思いから。 自分でも処理しきれなくなったのだ。 気がつけば、俺の口からは答えが飛び出していた。 「ほんまに、幸せにしてくれんの?」 「する。誰よりも大事にする」 謙也の言葉は甘くて、何度も傷つけられた俺の心を揺さぶるのは、たやすかった。 優しい男に絆されて [HOME] |