小春×ユウジ
*別れ話





昼休み。誰もいない日陰で本を読むのが好きだった。
人といるのも好きだったけれど、たまにこうして誰の声も聞こえないところにいたくなるのだ。
しばらく一人きりの時間を堪能すると、決まって擦り寄ってくる奴がいた。


「小春ぅ。好き、大好き。めっちゃ好き!」

ユウジが背中に飛びついてきて、すりすりと頬を擦り寄せた。
まるで猫のよう。

「知っとるわ。……あたしも好きやで」
「そんな冷たいこと言わんといてや。でもそんなところも好き……って、え?」

いつもとまったく同じトーンで言ったからか、ユウジもいつもの言葉を口にした。
時間差で俺の言葉を理解したようで、言葉を止めた。

「え、……え!? こ、こはっ、も、もっぺん言って! 今のん、もっぺん言って!!」

おぶさるみたいに後ろから顔を出した。顔は真っ赤、信じられないという表情。
俺はため息を一つ吐く。

「しゃーないなぁ。いっぺんしか言わへんし、よぉ聞いとくんやで」
「うん、うんっ!」
「俺も、ユウジのことが好きや」

ホンマに嬉しそうに笑った顔が、印象に残っている。





そんな告白から三ヶ月。
晴れて恋人となった俺とユウジは、学校帰りや休みの日に、よくデートする。
今日も休日デートを楽しんだあと、もう少し一緒にいたいと言うと、ユウジは少しはにかんで頷いたので、公園のベンチに座る。
日の落ちた公園に、男二人。
ユウジはさっきから両膝に置いた手をぎゅっと握りしめ、神妙な面持ちで地面を見つめている。
俺はそんなユウジを横目で見ていた。

特に会話はなかった。俺が、意識的に沈黙を貫いているから。
そのことが、ユウジを悩ませているのだろうことは、想像できた。
心地いい沈黙ではなかったから。
まあ、それはどうでもいい。

「ねぇユウくん」
「え、なんや小春」

突然話し掛けたものだから、ユウジは戸惑った目で俺を見上げた。

「キスしてええ?」

まどろっこしいのは嫌いなので、用件だけ伝える。

「んなっ!? そ、そんなんっ…まだ早いんと違うかな、俺達っ!」

案の定ユウジは、面白いほどわかりやすくうろたえる。顔は真っ赤。
本当に、隠し事のできない奴だ。

「もう三ヶ月やで。遅いとは言わへんけど」
「う」
「ユウくん、手ぇ繋ぐときも、まだ緊張してるやろ」
「そ、それはっ。だって恥ずかしい……やん…」

だんだんと声が小さくなっていく。その尻すぼみが、本人も悪く思っているだろうことを物語っている。
俺が怒っていると、勘違いしているんだろう。

「ユウくんはホンマにあたしのこと、好きなん?」

ユウジとは対照的に、俺の声は自分でもびっくりするくらい冷静に響いた。

「好きに決まってるやろ! 好きで好きで、大好きで……ホンマに好きやねん…」

ストレート。なんでそんなことを聞く、という怒りと疑われたことへの悲しみが混じった声。
どこまでも素直な奴。
だけど、僅かに困惑の色見え隠れしている。

「それはよぉ知ってるわ。耳タコやからな。あたしがゆうてんのはな、そう言う意味ちゃうねん」

だから、俺はその困惑を引きずり出す。

「ユウくんの好きは、恋愛の好きやないんとちゃう?」

ずばり、図星。
ユウジは面食らった顔で、しばらく絶句した。

「なっ……。そ、……そんなことあらへんっ!」

慌てて否定するが、逆効果。
俺は畳み掛けるように、続ける。





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