caseT.ユウジの話





最近、ユウジは千歳と仲が良い。
昼休み、よく二人で昼飯を食べたり、部活でも二人で打ち合ったり、一緒に下校する姿もよく見掛ける。
あんなにサボり癖のあった千歳を見る機会が多くなって、その大半が側にユウジがいて。
明らかに変だったので、本人に聞いてみた。

「なぁ、ユウジ。最近えらい千歳と仲ええみたいやけど、なんかあったん?」
「んー。なんかあったっつーか…」

目の前に座るユウジは、一拍置いてコーラをすする。てりやきバーガーとポテトとコーラのセット、俺の奢りだ。

「んとな。俺、千歳と付き合うことになってん」

ユウジは手に付いた水滴をペーパータオルで拭きながら、こともなげにさらりと言った。
あまりにも自然だったので、俺は一瞬理解できなかった。

数回、瞬く。

「え、え? って、ええーっ!? つ、付き合うって、なにっ!?」

ガタン。テーブルに両手をついて、身を乗り出す。
ユウジは迷惑そうにして、コーラが零れないよう、手に持って避難する。
俺の大声に、店内の視線が集まる。
店員も、訝しげに見ていた。恥ずかしかったので、咳ばらいをして腰を下ろした。
今度は小声で喋る。

「…付き合うって、なんやねん。聞いとらへんぞ」
「そらな。ゆうてへんし」

ユウジはしれっと答えた。
こいつ、腹立つ。

と、いうか、なんで千歳?
それも気になるが。

「……小春のことは、もうええんか?」

ユウジは、ずっと小春のことが好きだったはずだ。周りのことなんか目もくれず、一途に、純粋に小春のことを追っていた。
その気持ちが空回りして、小春本人には相手にされていなかったが。

俺の質問に、ユウジはジロリと睨んできた。ただでさえ鋭い目つきが、いつもより鋭くなる。

「もうええんかとか、どの口がゆうとんねん」

ユウジは、腹立たしそうにストローの口を噛む。

「謙也かて知っとるやろ。俺がまったく小春に相手されとらへんこと」
「それは……。やからって、なんで千歳なん?」

相手にされなかったからといって、ユウジは簡単に諦めるやつじゃない。それに、例え逃げ道だったとして、選ぶ相手が千歳だということに、違和感を感じてしまう。そんなに、仲が良かったわけでもないだろうに。

「……なんでって。」

ユウジは、説明するんめんどくさい、と言ってため息を吐いた。
その態度からは、やっぱり千歳への関心が見られないような気がした。
それとも、俺への友情がその程度なのか。

「千歳がな、俺のこと好きや、ゆうてん」

面倒だと言いながらも、ユウジはポツリポツリと話してくれた。

付き合いだしたのは半月ほど前で、千歳からの告白だったらしい。
いつも小春に振られて、落ち込んでいたユウジを千歳はよく慰めてくれたそうで。

「あるときな、千歳が言いよってん。“金色より俺の方がユウジを大事にできる”って」
「はぁ。んで、その言葉にぐらっときたと?」
「そーや。……悪いか」
「……いや」

ユウジが辛そうな顔だったので、俺はそう言うしかなかった。
俺は真っ直ぐ小春だけを思い続けるユウジが好きだったが、ユウジを責める気にはなれなかった。
そりゃ、辛いだろう。どれだけ好きだと言っても、尽くしても、返ってくるのは冷たい言葉、冷たい視線。
心は傷つくだろうし、諦めたいとも思うだろう。
そんなときに優しい告白をされれば、揺れ動いても仕方がない。たとえ好きでなくても、だ。
人は案外簡単に付き合うことができる。第三者からすれば“なんで?”と疑問に思うことでも、当事者たちは結構あっさりしたものなのだ。
だが、ユウジもまだ悩んでいるんだろう。小春への気持ちが冷めたわけでも、千歳への恋愛感情が芽生えたわけでもないようだった。

……それも、時間が解決するだろうが。

「そっか。話してくれてありがとうな、ユウジ。せっかく恋人ができたんや。幸せになるんやで」
「謙也……。俺のこと、軽蔑せえへんの? キモチワルイって思わへんの?」

ユウジは眉を八の字にして俺を見る。俺は安心させるように、何度か、ユウジの頭を軽く叩いてやる。

「思うわけないやんか。ユウジは精一杯頑張っとるって思とるで」

不毛な恋を諦めて、自分を受け入れてくれる千歳を好きになろうとして。
やっぱりユウジは健気なやつだ。
応援こそすれ、軽蔑する理由なんてなかった。

「謙也……。ありがとう! めっちゃ嬉しい…!」
「わっ、ユウジ泣きなや」

ユウジはポロポロと涙を流しながらも、本当に嬉しそうに笑っていた。

その笑顔に、俺の胸がチクリと痛んだ。


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