千歳×ユウジ
※直接表現はないですが、セックスの話です





「千歳、セックスしようや」
「へ…、ユウジくん、いきなりなんばいいよっと」

ベッドサイドにもたれ掛かって雑誌を読んでいた千歳は、一瞬動きを止めた後、恐る恐る俺を振り返った。顔が引き攣っている。
千歳のベッドにあぐらをかいて座った俺は、文字通り千歳を見下ろした。

「俺ら付き合ってるんやろ」
「う、うん。付き合っとるよ」
「じゃあ、ええやん。もう三ヶ月経つし、しようや」

そう。三ヶ月前、千歳の方から俺が好きやと告白してきた。
俺は別にそんなに千歳のことが好きなわけではなかったが、千歳はかっこいいし大人っぽいし、言われて悪い気がしなかったので、付き合い始めた。
二人で遊びに行ったり、今日みたいに部屋でのんびり過ごしたりして、二人だけで過ごすことは多いが、それは別に友達同士でもできるわけで。
俺はそれだけじゃ物足りない。

「ユウジくん、大事なんは時間やなかと」

千歳は困ったように眉を下げる。
千歳が俺のわがままでこんな顔をするのは珍しいので、相当困っているのだろう。
だからこそ、俺も困る。

「そんなんわかってる。…やけど、なんか…」

本当に付き合ってるのだろうか、と不安になる。
俺は元々男が好きだけど、千歳はそうじゃない。女性が好きなのだ。
なにか、気の迷いで俺を好きだと思ったけれど、いざ付き合って見ればやっぱり好きじゃなかった。男なんか止めとけばよかった……。そんな風に思われていないか、怖いのだ。
男女の交際じゃない、男同士なのだ。しかも、相手はノーマル。
不安にならない方がおかしい。
もっと、ちゃんと付き合っている証がほしい。
上辺だけじゃない、本当の絆がほしいのだ。

はっきりとそう口にできれば言いのに、重いと思われたくなくて、言えない。

セックスがその、唯一の方法だとは思わないが、上辺だけの付き合いじゃできないものだろう。
だから、したい。

ぐちゃぐちゃとした気持ちを伝えられなくて千歳を見ると、やっぱり困ったように微笑まれる。
千歳は立ち上がって、俺の隣に腰掛けた。
両手で俺の頬を挟んで、額を軽く突き合わせる。
千歳はよく、こうして触れてくる。スキンシップが好きなのだ。

至近距離の視線を、真っ向から受け止める。
だけど、相手の本心がわからなかった。

薄く微笑むだけで、それは俺の気持ちを軽く受け流しているようにも思えた。

(あかん。怖い…)

二人で向き合うことが、こんなに怖いことだとは知らなかった。
小春に片想いしているときは、自分の中のあるだけの気持ちをもって、好きだと言うだけでよかった。
だけど、恋人になるということは、相手の気持ちも受け止めなければいけないのだ。
自分だけが好きだったら、それは片想い以外なにものでもない。
だけど、俺は「千歳に好かれている」という確信が持てない。
こうしてよく触れてくれるし、キスだってしてくれる。
千歳が手を繋ぐのとか、ハグとかスキンシップが好きなのも、知っている。

だけど。

それだけじゃ不安なのだ。

俺はゆたかな胸もなければ柔らかい体付きでもないし、膣も子宮もない。どうしたって、女には勝てない。
その事実が、千歳を落胆させて愛想を尽かされているのではという不安になる。

だから、千歳は俺とセックスしたがらないのだと。半ば確信的に思い込んでいた。

だけど、別れたくないし、好かれていることを証明してほしくて、俺は千歳の胸に、顔を埋める。

「俺じゃ、あかんの…?」

声は掠れて、僅かに震えていた。
情けないけど、俺はそれだけ千歳のことが好きなのだ。
最初はどうであれ、今は千歳が好きで好きで堪らない。
だから、失うのが怖い。

「あかんのやったら……もう、別れよ?」





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