俺が、一氏先輩のこと好きやって? 有り得へん、有り得へん、有り得へん! そりゃ、どんな女が好きか言われても、見た目とかはあんま興味ない。知りもせんのに好きとか言ってくる奴も問題外。 せやけど、男が好きとか有り得んやろう。 ……あー、有り得んことはない、な。現にこの目で見てるわけやし。 でもあれは極めて特殊な例やし、一般人はやっぱ異性を好きになるもんやろう。 俺は一般人や。あんなキモい男と一緒やない。 こないだ謙也さんとメシ行ってから、俺の頭はこんな状態で、大層精神衛生上よろしくない。 俺がこんなにイライラしてんのに、対する一氏先輩はいつものごとく頭にお花なんか飛ばして「小春ぅ〜」とか言っている。 イラ。 あんまり顔を見たくないので部活にも行ってないというのに、学校のそこかしこでそんな声が聞こえる。単品ならまだしも、俺が見掛けると大概は小春先輩と一緒にいる。どんだけ好きなん。 イライラ。 このイライラの正体は、嫌悪とか憎悪とか、その類のもの。 間違っても、嫉妬とか恋心なんかやない。 大体、謙也さんの言うことなんて当てにならん。恋心とか語るタマちゃうやろ。 放課後、さりげなく失礼なことを考えつつ、校門にたどり着いた。 下校途中の群れの中に、見知った姿を見つける。 「一氏先輩」 珍しく一人やった。 夕暮れをバックにどことなくショボくれて見えるのは、気のせいか。 「おー、財前」 「今日、部活は?」 「休みの日や。なんや、最近顔出さへんやん」 「……体調不良っす」 嘘、ではない。 一氏先輩は興味なさそうに、へぇ、とだけ呟いた。 わかっていることやけど、小春先輩との態度の差に、更にイライラする。 「一氏先輩、一緒に帰りましょ」 「……なんで?」 先輩はきょとんとしている。 「別に。特別な理由がないと、一緒に帰ったらアカンのですか?」 「そんなことないけど……小春は委員会やしなぁ、ええで」 なるほど、しょんぼり見えた理由はこれらしい。 (特別な理由がないとアカンのは、そっちやろ……) 歯切れの悪い返答に、腹が立つ。小春先輩が主軸やないと、ものが考えられへんらしい。 「財前、どしたん」 「別に。なんでもありませんよ」 行きましょ、と先輩を放ってさっさと歩き出す。一氏先輩も慌ててあとを追い掛けてきた。 今は、俺の時間や。小春先輩のことは考えさせへんで。 前 次 [HOME] |