財前→銀 ある日の朝、下駄箱を開けると一枚の封筒が入っていた。 大きな上履きに寄り添うように入れられていた封筒を、銀は、不思議に思いながらも手に取る。 真っ白の洋形封筒だ。表を見ても後ろを見ても、真っ白。宛名はなかった。 銀は心当たりがなかったので、首を傾げる。 果たし状か、はたまた恋文か。どちらかといえば前者だろうが、どちらにせよ古風であり貰ったことのないものである。 開けてみないことには正体はわからないが、単純に嫌がらせ、という可能性もある。 開けることに少し戸惑ったが、伝えたいことがあるのだからと思い、開けてみることにした。 中には白い便箋が入っていた。枚数は10枚ほどだろうか。 1枚目を読む。 “石田銀さまへ――好きです。” これだけだった。 どこかぶっきらぼうな文字は、はにかんでいるようにも見えた。 謙虚というか、恥ずかしがっているというか。 かわいらしい。 銀はなんだか心が温かくなって、2枚目をめくった。 2枚目には、こう書かれていた。 好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです、好きです… 紙面いっぱいに、延々と同じ文字が並んでいた。 「……」 3枚目、4枚目とめくるが、同じだった。並ぶのは、狂気じみた同じ4文字。 ぶっきらぼうで照れ屋な文字は、次第に切羽詰まった文字へと変わっていく。 5枚目も同じ。 6枚目も、7枚目も。 何枚めくっても同じだったのだからやめればいいのに、恐怖と好奇心の混じった期待は最後の1枚まで手を伸ばしてしまう。 10枚目にはこう書かれていた。 “付き合ってください。――財前光” 「……」 銀はしばらく言葉が浮かばなかった。 相手は何を考えているのだろう。 考えて考えて、考えたあげく。 差出人に会いに行くことにした。 下駄箱近くのごみ箱には、便箋が8枚、捨てられていた。 重い愛は消却処分 [HOME] |