オサム×ユウジ





休日。
せっかく珍しく持ち帰りの仕事がない、本当の休みだというのに、ユウジが家まで押しかけてきた。
キラキラと期待を隠しもしない瞳で、玄関前で“待て”をする姿を見れば、追い返すのもかわいそうな気がして、ため息ひとつ、仕方なく招き入れる。

ユウジは特別用事もないようなので、放置することにした。
俺は寝そべって雑誌を読み、俺が構う気がないことがわかると、ユウジは胡座をかいてテレビを見始めた。
それぞれ好きなことをする。
基本はお互い無言、たまにTVがCMになるとユウジがポツポツ話し掛け、俺は顔も上げずに応える。他愛もない世間話だ。
いつもの休日。



「なー、オサムちゃんヒマ」

仰向けに寝そべる俺の腹の上に、ユウジが構って構って、と猫のように登ってきた。
見ていた番組が終わったらしい。TV画面には繋ぎのCMがチカチカと映し出されていた。
しばらくは面倒な振りして雑誌を読んでいたが、いよいよ詰まらなくなってきたのか、ユウジは本格的に邪魔を始める。雑誌の前に手を差し出したり、俺の腕を上下に揺さぶったり、本を読ませないように妨害される。
仕方がないので、雑誌を脇に置くと、ユウジの瞳が輝いた。
もう一度、きちんと腹の上に座らせてやる。

「しゃーないなぁ、お前はガキか」
「え、なにゆうとん。ガキやで、俺」
「せやったな」

ユウジの年齢を思い出し、苦笑する。

「オサムちゃんはホンマ変態なんやから」

言葉とは裏腹に、顔は満面の笑み。本当にガキだ。

手持ち無沙汰だった手で、ゆるゆるとユウジの手やら頬やら脇腹やらを撫で回してやる。
いやらしい意味ではなく、どちらかといえばスキンシップの意味で。
ユウジも満足なのか、擽ったそうに目を細めたり、頬を擦り寄せたり。
表現がいちいち猫の様で、吹き出しそうになる。
猫にも見えるが、……本当に子供のようだ。

「にしてもユウジ、お前色気なさすぎ」

うっすい体やなぁ、と右手を脇腹から腰へと撫で下ろす。若さゆえ、さすがに肌の弾力はいい。
ある程度筋肉が付き日焼けした、しかし脂肪のない体は、間違いなくスポーツマンの少年のものであり、ムチムチグラマラスボディの美女とは比べものにならない。

「男子中学生に色気を求める方がどうかしてるで、オサムちゃん」

いや、性別や年齢の問題じゃないのだ。現にユウジと同い年でも、色気を振り撒く男子中学生もいる。
俺はその最たる例である、テニス部部長の名前を挙げる。

「白石を見てみぃ。用もあらへんのにフェロモン出しまくりやぞ?」

長身、色白、美形、美声、無駄のない理想的な肉体。性格さえ除けば、相当いい線いっていると思う。

「白石と比べんとってや。あれは特別! あんな変態と一緒にしたあかん」

ユウジはぎゅっと目を瞑ってふるふると首を横に振り、抗議する。一応、癇に障ったらしい。
その挙動の一つ一つがやはり子供っぽく、頬が緩む。
それを悟られないよう咳ばらいを一つ、それからその他のフェロモン中学生の名前を挙げていく。

「白石だけやない。青学の手塚くん、氷帝の跡部くんや忍足くんなんかも色気あんぞ」

他にもユウジと同い年とは思えない、良く言えば大人っぽい子はいる。
大体、ウチの部で金太郎を除いて一番色気がないのはユウジだろう。小春のことしか見ていないから(本人は恋だというが、どう見ても過剰な憧れだ)、他の生徒より色気づかないのだろう。

「あれも特別! つかオサムちゃん、そんな目で俺らのこと見とったん? キモいで」
「ちゃうちゃう、そんな目で見とんのはお前だけやって」

精一杯誠実な風を装って、ささやく。
しかし、子供には通用しなかったよう。ユウジは屈託なく笑った。

「嘘つけー」
「ハハ、バレた?」

猫みたいな目を猫みたいに細めて笑うユウジに倣って、目を細める。

(ホンマ、なんでこんな、色気もないようなガキを好きになってしもたんか)

人生とはわからないものだ。

まだあどけない表情の顔を引き寄せ、そっと口づけた。




色気


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