金色→一氏 変わるはずがないと思っていた日常は、突然終わりを告げた。 一氏ユウジの世界から、金色小春が消えた。 俺の名を呼ぶ声も、嬉しそうな顔も、過剰なスキンシップも、今まで通り。なにも変わりない。 だけどそこには、とても微妙で何よりも大きな違いがあった。 馴染みすぎた子供みたいな体温は、いとも簡単に離れていく。名残惜しさなど微塵もないみたいに。 肩に残された温もりだけが、人の心の移ろいを教える。 「どうしたん、小春。俺もう行くな」 この名を呼ぶ声も、前みたいな甘さを含まず。この変化に気付くものは、俺以外いないだろうが。 「んーん、なんでもないわ。おん、気ぃつけぇ」 だから俺も、なにも変わらない振りをして、笑う。 いや、振りじゃない。 なにも変わらない。前に戻っただけ。 知り合う前の、ダブルスを組む前の関係に戻っただけ。 小さくなっていく背中を見詰める。 これでいい。 これが、俺の望んだ日常なのだ。 散々彼を傷付けてきた、当然の結果。判りきってたこと。 ……だから、喉から飛び出そうになる叫び声も、思わず伸びてしまいそうになる腕も、期待を捨てられないこの視線も気の迷い。 やがて慣れて日常になる。 “小春!” なによりもまっすぐで愛おしい、もう今は向けられないあの声が、瞳が、 懐かしいなどとは思わない。 日常は慣れた非日常 こうして人は大人になるんよ。 微かな痛み、僅かな悲しみ。これらはすべて、明日の喜びのためにある。 “だから、さようなら。私の愛しいひと。” [HOME] |