「一氏先輩は、小春先輩のどこがいいんすか?」

部活帰り。俺と光はファーストフード店で腹ごしらえをしていた。
なんでもない世間話がふと途切れたとき。
バニラシェイクをすすったあと、光がぼそっと呟いた。
俺はなんとも言えん微妙な顔になる。

「…それ、俺に言う? 本人に聞いたらええ話やろ」

友達の俺から見ても、ユウジがあそこまで小春に熱を上げてる理由はわからん。『人生惚れたモン負け』とか言う本人に聞かな、誰もわからんこっちゃろ。

「謙也さん…。あんなん、まともに話せると思います? こっちが疲れるだけや」
「あー…、まァな」

小春トークを始めたユウジほどの暴走特急は、中々おらへんからなぁ。

「ちゅーか、逆に聞くけど、光はなんでそんなこと聞くん?」

光といえば、(誰に対してもそうやけど、取り分け)ユウジと小春に対して歯に衣着せぬ物言いで、毛嫌いしてるようにも見えた。せやから、なんでそんな話を持ち出したのかわからんかった。

「そんなん…。……」

光は反射的に口を開いたが何を言うでもなく、しばらくそのまま視線を宙にさ迷わせた。どうやら理由を考えているらしい。

「あー…、なんでやわからんけど。……気になってしゃーないんスわ」

結局、探していた答えは見つからんかったらしい。やっと絞り出したものの、その言葉と視線は頼りなく。いつも、ズバッと一刀両断する光らしくなかった。

「気になる? 何がや?」
「何がて。それがわかったらこんな悩んでませんて。…なんかモヤモヤするんスわ。あの人のこと見てると」
「それって、恋」
「ちゃいます。アホですか、謙也さん。おもんない。いっぺん死にますか。あんなガチホモと一緒にせんといて下さい」
「そこまで言うなや…」

後輩の容赦ないダメ出しに悲しくなる。光はすんませんと謝るが、態度はまったく悪びれてなかった。いつものことやけど。

「なんかね、イライラするんスわ。一氏先輩が小春先輩に笑ってると」
「はぁ」

まるで言い訳するみたいに、光はぽつりぽつりと話し出した。

「だって、小春先輩ってホンマどこがいいん? や、性格とか人間性とか才能とかは否定しませんよ? ええ人やし、すごい人やし」

小春のことが嫌いなわけではないらしい。思えば、どちらかと言うとユウジへの態度の方がきつい場合が多い。

「でもあの見た目やし、オネエやし……一氏先輩ガチホモやったらもっと男らしいのがええんとちゃうん? 少なくとも俺の方がええ男やろって思うとムショーに腹が立ってですね」
「それ、惚れとるやん」

語り出す内熱を帯びはじめた光に、俺は高速で突っ込む。これぞ浪速のスピードスターっちゅー話や。

「は?」

光は、またかという風に眉を潜める。視線だけで「どういうことや」と説明を求められる。この後輩は、ホンマに偉そうな。

「ヒカルちゃん、ユージにベタ惚れやんか」
「は…まさか。謙也さんまでキモいこと言わんといて下さい」
「だって今のん聞いてたら、小春への嫉妬にしか聞こえんかったで?」
「…いや、有り得んて」

そう言いながらも、光は顔を真っ赤にしている。認めたも同然やろ。

「光ぅ…」

ふてぶてしい後輩の珍しい態度に、なんか面白くなってくる。

「だって、有り得んやろ…。男同士やで?」
「性別関係ないことは、光もよお知ってるやろ」
「せやかて。一氏先輩のどこに惚れるん? 可愛いかないし、ホモやし…」
「ユウジが小春好きなんと一緒ちゃう? 理屈とか見た目とかちゃうて」
「……」

顔を真っ赤にしたままの光は、少し考えさせて下さいと言って帰ってしまった。

理由があって好きになるもんやないって、光もよお知ってることやろ。

今まで馬鹿にしてきた相手と同じ立場になって、さて、これからどうなることやら。





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