眼鏡越しの君



「あれ?文次郎眼鏡持ってたか?」

文次郎の顔にかかっていたのは、見慣れない黒のフレームの眼鏡。
俺が尋ねると、文次郎は本から顔を上げてこちらを見る。
なぜか目を瞬かせた。
どうやら俺の問いがすぐには理解出来なかったらしい。
でも数秒後には理解したのか、あぁと納得したように声を漏らした。
そしてその眼鏡に左の指で触れた。

「これか?黒板と本を見るのに障りがあってな。作った」
「へぇ…」

それきり会話が途絶え、文次郎はちらりと俺を見た後読みかけの本に視線を落とす。
特にすることがない俺は、文次郎の隣に座ってその眼鏡を観察することにした。


文次郎のことだ。
多分フレームなんかは適当に選んだのだろう。
けど、不思議とそのフレームは文次郎によく馴染んでいた。
多分太めのフレームが、万年消えない隈を上手い具合に隠しているからか。
もしくは元々眼鏡が似合うタイプなのかもしれない。
つい最近掛け始めたにしては、違和感がまったくなかった。

色々言ってるけど、つまりなにが言いたいかって、要するにあれだ。
ぼんやりと考えていたから、つい、本当につい口に出してしまったんだ。


「カッコいい…」
「なにがだ?」
「文次郎の眼鏡姿」
「そうか」


自分が口に出していたことに気がついたのは、顔を赤くした文次郎がこちらを勢い良く見た時だった。

「お前…今なんて」
「あ?……あぁっ!なしなし!今のなし!」

うわぁぁ、何恥ずかしいこと言ってんだ俺!
余りの羞恥に両手で顔を覆って俯いた。
今俺の顔、絶対赤い。
触れている手に感じる体温が尋常じゃないぐらい熱い。
確かにうっかりカッコいいとか思ったけど!
なにも口に出すことないだろ…!

「…そんなら…」

聞こえてきた呟き声に、目線だけを文次郎に向ける。
顔を上げられないのはもちろんまだ恥ずかしいからだ。


途端、腕を強引に引っ張られ、文次郎の膝を跨ぐように座らせられる。
目の前には、ニヤケた面の眼鏡姿の文次郎。

「眼鏡、いつもかけてやろうか?」
「なっ…!い、いらんわぁ!」
「ほぅ?気に入ったんじゃないのか?」
「違う!それお前の勘違いだから!調子乗んなバカ!」



バカはお前ら二人だよ。

と、周りなどお構いなしにいちゃつく二人に、図書室にいた全員が心の中で突っ込んだ。


この後長次に注意され、漸く自分達がいた場所を思い出した二人が、赤い顔で痴話喧嘩しだしたのは、また別の話。



今日の教訓。
公共の場でいちゃつくのは控えよう。






後書き:個人的に文次郎は眼鏡めっちゃ似合うと思う。
隈が隠れて男前度が上がりそう。
という妄想の産物でした。