しあわせ


ぽすん、と柔らかく布団に押し倒された。
俺の視界に入るのは、見慣れたいつもの天井。
そして、眉間に皺を寄せた、俺を押し倒した兄の顔。

普段は呆れるほど一直線な性格なのに、今はその顔からありありと迷いが読み取れた。
本当にこれでいいのかって、線を越えるのを躊躇してる。

…そうだよな。俺達は兄弟で、男同士で。
迷わない訳ない。
ましてや兄貴は「大人」だから。
躊躇するに決まってる。

でも、俺はまだ「子供」なんだ。
お互いの、特に俺の将来を潰しかねないこの関係。
きっと兄貴は罪悪感を背負ってる。
でも俺は世間体だとか将来だとか、そんなもの知らない。
兄貴が好きってこの気持ちしか分からない。

だからいいんだ。
先の未来より今を選んだのは他ならぬ俺だから。
兄貴だけが罪を背負う必要なんてない。
だって、俺達は共犯者。
一人で背負うよりも、二人で背負う方が楽だろう?


それに何より、俺は兄貴に伝えたいことがある。
兄貴が罪悪感なんて感じないように。

「もんじ兄…」

使わなくなってしまった幼い頃の呼び方で呼ぶ。
もんじ兄はまた眉間に皺を寄せた。
ああ、違うんだ。
そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
ただあの頃みたいに満たされた気持ちになっただけ。

俺はその逞しい首に腕を絡めて、頭を引き寄せる。
引き寄せた頭の耳元でこう囁いた。


「すごく、幸せ」


何も知らず無邪気に傍にいた時みたいに。
心の全部が幸せで満ちてる。
素直に幸せと言えるほどに。

ハッと、もんじ兄が息を呑む気配して。
一拍おいて、俺は強く抱き締められた。

まるで離さないって言われてるみたいで、俺はまた幸せになった。



先のことなんて知らない。
だってもんじ兄がいなきゃ、俺に先ないから。








後書き:またもついったの診断です。
いいのが出たので情熱の赴くままに書きました。
うーん、なんだか纏まりがないな…。
血の繋がりはあっても無くてもお好きな方で。