※小話と繋がりはないです
※下ネタだよ!





「留三郎、恵方巻き持ってきたぞ」
「ああ、すまない」

漸く豆まきが一段落した夜。
狙われっぱなしで暇がなかった俺と文次郎は、漸く恵方巻きにありつくことになった。

「…随分大きいな」
「おばちゃんが、頑張ったからサービスだとよ」
「そっか」

そりゃおばちゃんに感謝しないと。
明日の朝にでもお礼を言わないとな。

「いただきます」

手を合わせ、恵方巻きにありつく。
文次郎は例の長い前口上を言っていたから、先に食べる。
…しかし大きい。
これ、口に収まりきるか微妙な感じだ。
少し躊躇しながら、俺は意を決してかぶりついた。
確か今年は北北西だから、そちらを向いて。
文次郎も食べ始めたから、しばし無言で恵方巻きを食べる。
うん、美味しい。

「……っ…」

美味しい、が、食べにくい。
咀嚼するのが一苦労だ。
何とか、半分は食べ終わった。
俺が必死になって食べる傍ら、文次郎をちらりと見やる。
文次郎はほぼ食べ終わっていた。

「!」

驚きで恵方巻きから口を離し、文次郎を凝視する。
文次郎は俺の視線に気がつき、最後の一口を飲み込むとこちらを見た。

「なんだ、まだ食べ終わらないのか?ほら、手伝ってやるから」

そう言うと、文次郎は恵方巻きの先を持って俺の口に押し込んだ。
いきなりのことに俺は抵抗を忘れてしまい、されるがままだ。

「〜〜〜!」

呼吸が苦しくなって、少し涙が滲む。
文句を言おうにも、当然口は塞がっていから無理だ。
俺はせめてもの抵抗に、文次郎の右を手首両手で掴んで押し返した。
そして何とか位置調節して、苦しくない所に持ってくる。

どうにかこうにか、最後の一口を飲み込んだ。

「…っく…、お前何するだよ!」

文次郎をキッと睨みつけるものの、当の本人は腹立つほどのにやけ面だ。

「いや?中々に良かったぞ。ごちそうさま」
「はぁ?」

言われて、ようやく気がついた俺は、我ながら馬鹿だと思った。
それ以上に、目の前のこの男はもっと馬鹿だと思った。

「なんだよそれ」
「誰しもが考えることだろう」
「じゃなくて」
「?」

俺は、にやりと挑発的に笑ってやった。

「お前のはいいのかよ」

文次郎は目を丸くして、それから俺と同じように笑った。

「…随分と積極的だな」
「うるせぇ。初めからそれが目当てのくせに」
「否定はしない」

二人して笑って、色気のかけらもないけど、交わした口づけは甘く感じた。









実は留三郎の恵方巻きだけが普通より太かったことは、文次郎だけの秘密である。





後書き:やっぱり最後はいちゃいちゃオチだよ!
ベタでサーセン!