夕日に染まる数学準備室。
そこでは学校とは思えない濃密な空気が漂っていた。


 熱い


「…ふっ、あ…」

潮江先生に呼び出されて準備室に来た途端、腕を引っ張られ引きずり込まれて。
その厚い胸板に納められ、深いキスをお見舞いされた。
そして今は、背中から抱きしめらてシャツの中に侵入してくる手を必死で押し留める。

けど、肌を滑る無骨な手の感触に、どんどん体の力は抜けていく。
時折項や耳朶を掠める唇や吐息に体の温度は上がる一方。
ここは学校だと食い止める理性は、ぽろぽろと剥がれ落ちていった。

「せ、先生っ…ここ学校…っ…」
「知ってる」
「ならなんでっ……」

申し訳程度の言葉での抵抗じゃ、先生は手を止めてくれない。
それどころかますます大胆になっていって。
先生の意図が掴めなくて、俺は戸惑うばかりだった。

耳に先生の唇を感じたかと思えば、甘噛みされる耳朶。
しかも同時に喋られるもんだからたまったもんじゃない。
低くて掠れた、俺の好きな先生の声が鼓膜を震わす。

「漸くテスト期間が終わったからな。そろそろ足りなかったんだ」
「な、なにがっ」
「お前」

そのストレートな物言いに、カッと頬が熱くなる。
恥ずかしさの余り目を閉じ、俯く。
頬が相当赤くなっているのを自覚した。

だって、狡い。
テスト期間は見事なまでに俺を無視したくせに。
先生だからと言ってしまえばそれまでかもしれない。
でも俺は寂しかった。
挨拶ぐらいしかまともに言葉を交わせなくて。
終わった途端、いきなりこんな風に求めてきて。

先生は狡い。
狡いし、卑怯だ。
……こんなの、ますます好きになっちゃうじゃんか。

そんな馬鹿げたことを考えてしまうぐらい、俺は骨の髄まで先生に染まっていた。

いきなり、先生の手が俺の顎を掴む。
そのまま強制的に先生と目を合わせられた。
真っ直ぐな目が、少しずつ近づく。
あ、キスされる。
そう思った瞬間、反射的に目を閉じた。

…待てど暮らせど唇は降りてこない。
不信に思って、そっと瞼を上げた。
そこには意地悪く笑う先生の顔のドアップ。
その顔に弱い俺は慌てて目を逸らそうとした。
そうはさせまいと、先生の手が顎から頬に滑り、逸らせないよう固定された上。

「顔真っ赤だな。暑い?それとも、…何かしてほしいか?」

なんて言われてしまえば。
俺のなけなしの理性も抵抗も、跡形もなく崩れ去る。
ただ目の前にある快楽を欲するだけ。

「…っキス、して欲しい……」

羞恥の涙で滲む視界に映ったのは、満足そうに笑う先生の顔だった。






後書き:別名、えむとめシリーズ(笑)
言葉/攻めされったーで出たのを書くから必然的にMになる留www
でも楽しいから多分シリーズ化。
毎回、誰?な留になると思われます。
もんじ?もんじは至って通常運転です。我が家では。