「あー…ポニーテールは好きだな」


そんなことを恋人が言ってたら、あなたはどうする?




 気づいてダーリン




「留。おはよう」
「…おはよ、もんじ」

つい最近恋人になった文次郎と一緒に登校するのは、付き合う前からの習慣だ。
だから今更なにがあるって訳じゃないけど、今朝はちょっとだけ違う。
それもこれも、文次郎の冒頭のセリフが原因だ。

男だけで何かの雑誌を読んでいた時、文次郎が漏らしたのを偶然耳にした。
私はその時「伸ばしてみたらどうだ?」と言われて、やっと肩下まで伸びた髪に触れた。
思うことはただ一つ。

(なんとか…結べるかな?)



若干無理矢理ではあるけど、どうにかポニーテールを結んで、今日初めて文次郎に披露する。
文次郎の反応を、そっと窺ってみた。


文次郎はちょっと私を見た後、何事もないかのように歩き始めた。

「えっ?あ…」
「どうした、留?行かないのか?」
「うん、行く、けど…」

なんの反応もないことに地味に傷つきつつ、私は文次郎の後を追った。



道中は他愛のない話をしながら歩いた。
もしかしたらなにか言ってくれるかも…という淡い期待は期待に終わった。
結局、学校に着いてしまっても髪の触れられることは無かった。
私は表面上はいつも通りを装ったけど、内心沈んでいた。
実は大してポニーテールに興味がないのか、はたまた私が似合わないからなにも言わないのか。
前者だとしたら真に受けて私なにやってんだろ。
後者だとしたらもの凄い落ち込む。
どちらにせよショックだ。

そういえば校内に入ってからなんとなく視線を感じる。
…やっぱり似合わないのかな。
別に他の誰にそう思われても気にはしないけど。
文次郎には、似合ってるって思われたかったな…。



私と文次郎はクラスが違うから、二階に上がったらお別れ。

「じゃ、また昼休み」

さっさと教室に行きたい。
それでこの髪を解いていつもの様に下ろそう。
気持ち急ぎ足で踵を返した。

「あ、そうだ。留」

呼び止められて、少し眉間に皺を寄せつつ振り返る。

文次郎の手が、私の髪に触れた。



「その髪、似合ってるな。俺が好きって言ったからか?」

気づかれていたという嬉しさと、バレていたという恥ずかしさ。
で、私は顔が一気に赤くなるのを自覚した。

「し、知らない!」

私は叫んで文次郎の手を振り払い教室に駆け込んだ。

先に来ていたいさ子の背中にタックルする勢いで抱きついて顔を埋めた。
恥ずかしい、嬉しい。
穴があったら入りたい。
似合ってるって言ってもらえた。

色んな想いが交錯して顔どころか全身熱くなった。



でも結局は。
昼休みまた褒めて貰えて、意図を気づかれた恥ずかしさは嬉しさに塗り潰されてしまう訳だけれど。
この髪型は文次郎の前でしかしないと密かに心に決めたその日だった。



「で、始めから気づいていたくせにわざと言わなかった訳だ」
「言って欲しくてソワソワしていたのが可愛くてな」
「しかも見せつけるように皆の前で褒めたのか」
「アップにしたせいで露わになった項に不埒な視線を送る輩がいたから」
「…さりげなく自分の好みにしたてあげてる気がするが」
「別に構わんだろ。他に渡す予定は未来永劫ない」
「そーか。…少し自重しろ」
「嫌だ」



後書き:初女体化話でした〜。
楽しかった(*´∀`*)
留がこれでもかってくらい乙女ですね(笑)
いかに乙女にするかが書いてて一番楽しかった所です。
留と伊作と、出てないけど小平太も女体化です。
まぁ伊作は男でもいい訳ですが。
因みに最後のは仙蔵と文次郎の会話です。