※某歌とは特にリンクしてません。




 部屋とYシャツと俺



少しヒンヤリした空気を頬に感じて目が覚めた。
霞む視界にまず目に入ったのは肌色。
徐々にクリアになる視界で、その肌色の正体が胸板だと分かった。
その時点で一気に昨日の夜のことを思い出し、一瞬で頬に熱が集まる。
そうだ、昨日は久々に先生の家に来て、それで…。
そこまで考えて考えるのを止めた。
駄目だ、恥ずかしすぎる。

ベッドの中で恥ずかしさに身悶えて、はっと気づく。
先生起きてるんじゃ…。
こんな姿見られたらなんてからかわれるか分かったもんじゃない。
慌てて頭一つ分上にある先生の顔を見上げた。

穏やかな寝息を立て続けて、寝ていた。
ほっとするのと同時に、虚を突かれた気持ちになる。
いつもなら先に起きてて俺の寝顔を「可愛いから」の名目で眺めてるのに。
因みに俺の寝顔なんて可愛くないと思う。
先生の目はたまにおかしい。

よく見ると、目の下の隈が普段より濃かった。
疲れてるのかな。
だとしたら家に来て悪いことしたかも…。
…いや昨日あれだけされたんだから別にいいな、うん。

それにしても珍しい。
こんな風に寝顔をまじまじと見たのは初めてだ。
なんというか、多少幼い。
普段は隈のせいで老けて見えるせいか余計にそう感じる。
この隈、なけりゃもっと男前なのに。勿体無い。
でも二人で寝た次の日は不思議となくなる。
その顔が好き、だとか、その顔は俺しか知らない優越感、だとか。
思ってるとか秘密だ。絶対。


右手の親指でそっと隈に触れる。
でもこの隈も愛しいと思う俺は多分末期。
仕方ない、好きなんだから。言わないけど。

「う…ん…」

先生が小さく唸って、眉間に皺が寄る。
驚いて手を引っ込めた。
起こした?と思ったけど、その後またすぐ静かに寝息をたてたから胸を撫で下ろした。


にしても、肌寒い。
布団がはだけたせいで、部屋の空気がむき出しの肌に触れた。
…つーか俺何も着てなくね?
先生は上半身は裸だけど、下は着てる。
ちらっと己の下を見る。
俺は下すら着てなかった。
…いやなんか着せろよ!
布団の中は暖かいけど!
そういう問題じゃないし!

服を着たかったけど、俺は先生の右腕を枕、左腕は腰にあってあんまり身動きが取れない。
仕方ないから、腕を伸ばして手探りで服を探した。
探してるうちに、人差し指に少し固めの生地の感触。
多分制服のシャツだ。
それを手繰り寄せて、最小限の動きでそれを着た。

そこで違和感。
袖が余る。肩が合わない。
一番上のボタンを閉めても鎖骨が丸見え。
裾は太腿の半分くらいまである。
…これ、先生のだ。

先生とは身長差以上に体格差が結構ある。
学生時代に剣道で鍛えた先生はガタイがいい。
俺はというと、別に貧弱でもチビでもない。
ただ先生と比べると細いってだけの話で…。
それにしても、ぶっかぶかだこれ。
うぅ、なんか悔しい。

あ、でも…匂いがする。
先生の匂いと、微かに煙草の香り。
先生は意外と煙草を吸う。
でも俺の前じゃ、気を使ってか滅多に吸わない。
この前偶然、俺が寝ている横で吸っていたのを見た時は不覚にも胸が高鳴った。
仕草が綺麗で、大人だなぁってぼんやり思ったのを覚えてる。


先生の寝息を聞いて、その匂いを感じていたら、また眠気が襲ってきた。
今日、学校はない。
それにまだ起きるには早い時間だ。
二度寝を決め込むにはいい条件が揃ってる。
俺はその眠気に抗うことをせず、先生の体温と寝息、匂いを感じながら眠りに落ちた。
幸せだな、何て考えながら。



「…あんまり可愛いことをしてくれるなよ」

文次郎がそう呟き、留三郎のおでこにキスを落としたことを、寝入った留三郎が知る由もなかった。






後書き:彼シャツは大好物。
体格差を強調する為に先生と生徒に。
我が家の留三郎は細身です。
文次郎は隈を触られる前後から起きてました。
寝たふりをして留三郎がどうするか窺ってたら、予想以上に可愛いことされたよ、みたいな。