小話 | ナノ




宇宙人チョージ
2012/03/13 00:29


春。
この惑星の駅と呼ばれる場所では、出会いと別れが繰り返されている。

田舎の片隅にある寂れた駅。
そこには二組の男女と、駅員に扮する宇宙人チョージ。


「どうしても…行くのか」

目の下に隈を作った男が、赤い目の少女に言う。

「ごめんなさい…」

少女は切なげに微笑む。
離れたくない。その感情がありありと見て取れた。
しかし無情にも笛は鳴り、扉が二人をわかつ。


「…どうしても、行くんだ」

目元が涼やかな少女が、柔らかな茶の髪を持つ男に言う。
男は窓から体を出し、苦しそうに唇を噛み締める。
だが時間は二人を待たない。



「出発進行…」

男と少女、二人を乗せた電車は走り出す。

「私なんかよりも、ずっといい人が見つかりますから!」

少女は男へ、必死に伝える。

「ごめんねー!!」

男は少女へ、想いを叫ぶ。

「伊作っ!」

少女は最後に彼の名を呼び、男は耐えるように少女を見送った。




春。
出会いと別れが繰り返され、人々は大抵、悲しみと痛みを伴う別れを拒む。
恋人であれば尚更だ。
ただ、この惑星では…




「…よしっ」

「きゃっ!」

少女の履いた靴のヒールが突如折れ、バランスを崩した少女を男が受け止める。
男と少女の、瞳がぶつかる。
男が、口火を切った。

「付き合ってる奴は…」
「いません」




別れないと、出会えない。

「よしっ…」



春よ〜 遠い春よ
瞼 閉じればそこに〜


このろくでもない、素晴らしい世界に。

缶コーヒーのSHINOBI
URA MAUNTEN





後書き:反省はしても後悔はしていない。
ずっとやりたかったので大変満足!
このシリーズ大好きなんですww