一人きりの部屋に、算盤の玉を弾く音だけが静かに響く。 同室の仙蔵はというと、今宵は任務で留守にしている。 お陰で心置きなく委員会の仕事を片付けられるのだが。 背後で音無く、襖が開いた。 「…留三郎か」 手を止め、振り向かず言う。 おう、と小さな返事。その声はやはり留三郎だった。 何も珍しいことじゃない。 特に最近は委員会にかまけてほったらかしだったからな。 「少し待っててくれ。後はこれだけだ」 言って、また算盤を弾く手を再開する。 何も言わないのは、恐らく了承の意なんだろう。 「………」 ……落ち着かない。 というか、留三郎が落ち着いてないから俺もつられて落ち着かない。 見えないのに、そわそわしてるのが丸分かりだ。 (……ったく) 俺もつくづく甘いな。 「留三郎」 「え?…うわっ!」 振り返り、寝巻き姿の留三郎を腕を引っ張って俺の胡座をかいた膝の上に乗せた。 今すぐは構えないが、これぐらいならしてやれる。 「もんじっ…!」 「今はこれで我慢しろ」 宥めるように背中を撫でると、途端大人しくなる。 それを確認すると、また帳簿に向かった。 が、今度は恥ずかしいのか何なのか、もじもじし出した。 いやもっと恥ずかしいことしてるだろが…。 今更お前…。 「…恥ずかしいなら降りていいぞ」 応急措置みたいなもんだから、別に降りてもいいんだが。 しかし予想に反し、留三郎は顔を赤くしながらも、無言で首を横に振った。 しかも抱きついてきて、俺の上衣を握り締めた。 これは多分、留三郎なりの甘えだ。 (…かわいい) 留三郎に気づかれないよう、こっそり笑った。 ついでに算盤を弾く手と書く手の速度を上げた。 【食満留三郎を膝の上に座らせてみると、もじもじしだした。『恥ずかしいなら下りていいよ』と言うと、無言で首を横に振って抱きついてきた。かわいい】 という診断結果でした。 |