生意気少女と暗殺部隊
ーー何があったんだっけ?お兄ちゃんと喧嘩してムカついたから家出して……それで。
変な黒い服着た人達と戦って……お腹殴られて……。
「ぬわぁぁぁぁ!」
勢い良く上半身を起き上がらせると、大きな部屋のベッドの上にいた。
「一人……。ていうかあんの王子! 私のお腹殴ってこんな意味のわからないところに放置か」
リングや匣は全て取られている。戦う前からずっと被っていたフードを前に引っ張り、なるべく顔が見えないようにして部屋の外へ出る。
部屋の外には誰もおらず、長い廊下が続いていた。少し歩くと、先程見た蛙の被り物を被った人の後ろ姿を見つけた。
「ちょっとそこの蛙」
「えっとー、誰でしたっけー?」
後ろから声を掛けると、無表情のまま首を傾げる蛙。
「私の持ち物返しなさいよ」
「あ!思い出しましたー。堕王子が持って帰ってきた人ですねー?」
人って言われてるけど、もの扱いされてる気分だな。そしてちゃんと人の話を聞けよ。
「……持ち物」
「リングと匣なら堕王子が持って行きましたよー?」
「そう。ありがとう。で、その堕王子はどこ?」
「さっきから質問ばっかりじゃないですかー。何でミーばかり答えないといけないんですー?」
「ハァー。じゃあ私はどうすれば良いのよ」
「ミーの質問にも答えてくださーい。あんたはどこから来たんですかー?」
「……とあるファミリーから」
「誤魔化さないで下さいー」
「じゃあここはどこなのよ!」
「また質問ですかー?……ここはボンゴレファミリーの独立暗殺部隊ですー。あんたもマフィアならボンゴレは聞いたことあるんじゃないですかー?」
「え……あなた達ヴァリアーなの?」
「あー、知ってましたか」
独立暗殺部隊ヴァリアー。聞いたことがあるどころの話ではない。私はとんでもないところに来てしまったようだ。堕王子から荷物を取り戻して早くここから出なければ。
蛙との会話を中断し長い廊下を走る。後ろから蛙の声が聞こえたが追いかけてくる様子はなかった。
走った先には大きな扉があり誰の部屋なのか考えず迷わず開けた。顔を覗かせると厳つい顔をした人と目が合った。
「あ"ぁ?」
「……失礼しました」
そして静かにドアを閉めた。ヴァリアー怖い。少しでも早くこの屋敷から出たい。
とぼとぼと廊下を歩いていると、曲がり角で誰かと軽くぶつかった。頭にぶつかった硬い何かは、すぐに鍛え上げられた筋肉だと分かった。
「あらん?」
「……」
ムキムキな身体に対し女性らしい動き。ヴァリアーにはオカマがいるのか。目を前髪で隠してる王子もいれば、大きい蛙の被り物を被っている奴もいる。そして、先程の厳つい人。それに加えてオカマとは……ヴァリアー恐るべし。
「貴方どこから来たのん?」
「王子みたいな人が無理矢理……」
「ベルちゃんかしら?あの子ったら気に入ったら、誰でもすぐに連れて帰ってくるんだからぁ。んもぉ!」
「その人今どこにいるか知りませんか?」
「見てないわねぇ」
「う"お"ぉい!!邪魔だァ!どけェ!!」
「うわぁぁあ! び、びっくりした」
「あら、スクちゃん」
「なんだぁ?お前……さっきベルが連れてきた奴か」
「は、はぁ。多分。ていうか声大きすぎます。煩い」
「う"ぉ!すまねぇなぁ」
「えっ?あぁ、いえ」
「うふふ」
素直に謝るものだから返事に一瞬戸惑った。この人達は王子や蛙より、良い人なのだろうか。
「あの、ベル……でしたっけ?その人どこにいるか知りませんか」
「ベルを探してんのか?」
「はい。荷物全部取られたので。それで早くここから出たい」
「アイツなら自分の部屋にいるぞぉ」
「部屋?どこに……」
「ここを真っ直ぐ行って右に曲がったところよーん」
「ありがとうございます」
「じゃあなぁ。気をつけろよ」
煩い人とオカマと分かれ、ベルという人の部屋へ向かう。先程言われた通り右へ曲がると、ドアが数個あった。全部開ければどれか当たるだろうと思い、近くにあるドアから開けてみる。
「失礼しまーす」
「ムムッ」
「……誰ですか?」
「それは僕のセリフだよ」
ドアを開けると部屋にいたのは今の私のようにフードを深く被った、怪しげな人だった。
「あー、部屋間違えましたかね?」
「知らないよ」
「ベルって人の部屋知りませんか?」
「僕は金になるものしか興味ないから。報酬があるなら教えてあげるよ」
「ケチな人だな」
「何とでも言えばいいさ。……普通に話してるけど、君誰なんだい」
「報酬があるなら教えますけど」
「ムッ」
「じゃあ失礼しました」
そう言ってドアを閉めようとしたところまでは覚えている。それからの記憶がはっきりしていない。変な空間と蛇を見たのは確かでそれらが幻術というのも間違ってはいないはずだ。どうやら相手は幻術使いだったようだ。
生意気少女と暗殺部隊
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