暗雲に広がる光 | ナノ
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家出少女と暗殺部隊


真っ暗な森に浮かぶ金色の髪が颯爽と木から木へと飛び移る。その音は風が吹く音にかき消され全く聞こえない。

その人物は動くのをやめ一本の枝の上に降り立つ。振り向き様にリングに炎を灯した。


「……開匣」

匣に炎を注入し取り出した武器で追っ手を撃ち落とす。金色の髪の人物は再び行動を開始する。



さらさらと揺れるブロンドに全身を黒き衣を纏った小柄な体。更にリングと匣。





そう、彼女はマフィアなのだーーーー








私は小さい頃、身体が弱かった。走ってもすぐに呼吸は乱れるし、家に閉じこもっていつもベッドの上で大人しくしていた。学校にも行けないし兄がはしゃいでいる姿を家の中で窓越しに見ることしか出来なかった。

しかし成長するにつれ、体調は少しずつ良くなり今ではこうして木から木へ飛んで移動することができ、戦うことも出来る。


そして私は初めて無断で家を出た。先程の追っ手は私の家の部下達。勿論殺してはいないが、家出したのに追っ手に捕まって家に返されるなんて格好がつかないので決して捕まるわけにはいかない。兄がいればすぐに捕まっていたが兄の不在中にこっそり家を出たため、まだ兄の元へ連絡はいっていないはずだ。


行く先は決まってはいないがお金と少しの食料。そしてリングと匣という最小限の物を持って、少しでも早く家との距離を長くする。




どれくらい移動しただろうか。気が付くと見慣れない森が目の前に広がっていた。辺りを見渡しても光はない。移動をやめて耳を澄ますが何も聞こえない。完全にこの大きな森の中で遭難してしまった。


「どうしよう……ん?」

何もしていないのに体が揺れる。黒いコートの腰辺りを持ち上げ左右に広げると腰のベルトにかけてある匣アニマルが左右に揺れている。


「成る程。よろしく、ウール」

リングに雲の炎を灯し匣アニマルに注入する。そして私の足元に出て来たのは雲羊(ペーコラ・ヌーヴォラ)。


ウールは私を見て頷き、移動を始める。向かう先に何かあるようだ。足に力を込め真っ暗な森を進む。すると遠くから微かな音が聞こえてきた。


止まったウールの横に着地し様子をうかがう。聴こえる音は人間を切り裂く音や人間の呻き声で、決して良い音ではない。

「っ!」


何かこっちに向かって飛んでくる!?




透かさずウールの体毛はモコモコと増殖し私を守る鉄壁となる。攻撃が止み何が飛んできたのか確認すると、複数のナイフだった。どうやら幻覚でナイフを消し此方に向かってきたようだった。ウールを匣に戻し、もう一つの匣に炎を注入する。

「誰……」


近くに二人程いる。いつの間にか接近を許していたようだ。気配には敏感な方だったが全く気付かなかった。結構な実力があると思われる。私が口を開くと二人が姿を現した。一人は金髪で頭にティアラを乗せていて長い前髪で目が見えない。もう一人は大きい蛙の帽子を被っていて、二人とも強いのは伝わってくるが外見だけを見ると気が抜ける。

「しししっ。お前もさっきの奴らの仲間?」
「何の事?」
「しらばっくれても無駄ですー。ミー達あんたを殺さないと帰れないんでー」
「何を……ちょっ!?」


突然目の前に飛んできたナイフをしゃがんで避ける。驚く私に笑う王子。蛙は相変わらずの無表情だ。



「ばれてないと思ってるんですかー?」
「……」
「俺らの周りカードだらけじゃん。今は木に隠れて見えないけどな」


彼らの言う通り、私は武器のカードを匣から出し木に隠しておいた。カードはナイフの様な役割をし、勿論彼らを狙っている。そして雲属性の特徴の増殖によってカードの枚数を増やし逃げ場を無くす。

「うわっ、何このカードの量」
「でも仮にこのカードが全部ナイフになって、向かって行くのがこっちじゃなくてそっちになったらどうしますー?」
「っ!」


そんなあり得ないことが起こるはずない。なんて考えていた刹那、蛙の言ったままの状況になり大量のナイフが私に向かって飛んでくる。


何をするか考えている暇はない。絶体絶命だ……!







「う"お"ぉぉぉい!!」


この大きな声によって向かってくるナイフは私の体に刺さる直前でピタリと静止した。


「げっ」
「うるさいですー」

「てめーらいつまでも何してんだぁ!もう敵は片付いただろうがぁ」
「それがもう一人いたんですよー」
「あ"ぁ!?」

いきなり現れたロン毛は私を怖い顔で睨んでくる。


「何だぁこいつは。さっきのファミリーじゃねーぞぉ」
「ありっ、敵じゃねーの?」
「……違うってば」
「こいつらが迷惑かけたなぁ!あとここらは危ねえぞぉ!!」

「じゃあな」とロン毛はこの場を去って行った。王子と蛙もその後を続くのかと思っていたが、そうではないようだ。


「ししっ。お前どこのファミリー?」
「……家出したので」
「ファミリー抜けたってことかよ」
「まぁそんなものです」
「行く当ては?」
「考え中です」
「じゃあ今日から俺の奴隷ってことで。しししっ」
「うわー、奴隷とかドン引きですー」

誰がするかと歯向かおうとした瞬間、視界いっぱいに王子が広がりお腹に衝撃がきて……そこからは覚えていない。




家出少女と暗殺部隊




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