守られ少女と霧の守護者
「人を殺したことはあるか」
ボスの部屋へ呼び出されたと思って来たらこの質問だった。自分がマフィアである以上、殺しは避けてとおれない事なのは分かっている。だが私は経験が浅い。故に殺し、という事をしたことがない。素直に首を横に振るとボスはフンと鼻を鳴らした。
「人を殺せるか」
「……どうでしょう。自分が殺されるか、自分が殺すかという状況になれば、きっと、殺すんでしょうね」
「ここはボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーだ。殺るか殺られるかだ。それを頭に入れておけ」
「はい。じゃあ失礼します」
静かにボスの部屋の扉を閉めて、廊下を歩く。殺さなければ殺される。此処はそんな世界。
ーーーーゾワッ
「っ、だれ」
誰かに見られている。そんな感じがした。しかし辺りを見渡しても誰もいない。
「……カハッ!」
一瞬だった。見えない何かが私の手足を縛り、首を絞めた。攻撃はどこからか必死に探すが、何も見えない。恐らく内部からの攻撃ではなく外部からだ。
息が出来ない。苦しい。だれか、助けて……。
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ディアナの修行に付き合ってやってから数日、今日も仕方なく相手をしてやる。ししっ、王子ってやっさしー。
「んあ? いねーじゃん」
いつも約束の時間より早く来るあいつの姿が見えない。ボスか誰かに呼び出されてんのかと思って庭から城の中を見ると、廊下を歩くあいつが見えた。俺が来てやってんのにナメてんな? 針千本の刑けってーい。
飛んで窓から城の中に入り、ディアナの背後から大量のナイフを投げつけてやった。しかしあいつは後ろを見る事なく同じようにカードを投げてナイフを全て落とした。こいつこんなに強かったっけ? 王子の修行のおかげ?
「何ですか、いきなり」
「お前修行さぼってんじゃねーよ」
「……あぁそうでしたね。今日は体調が優れないのでまた今度で」
んー、コイツってこんなやつ? いつもは隙だらけなのに今のコイツは隙がない。感情も表に出てない感じ。
「ベル」
「おっ、マーモン」
「それ、誰だい?」
「コイツやっぱちげーよな」
マーモンの登場。こいつがこう言うってことは、やっぱ幻覚? ディアナはニッコリと微笑んで「何のことですか?」ととぼけていた。
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真っ暗だ、ここはどこなんだろう。……確か私の身体を何かが締め付けて気を失ったんだ。まだ生きてるのかな。
急に視界に映ったのはベルとマーモン。怪訝な顔を私に向けている。しかし何だこの違和感は。身体が動かせない。
「君は……六道骸だね」
私に向けて放たれた言葉。六道骸と言えばツナさんの、ボンゴレファミリーの霧の守護者だ。
「まさかアルコバレーノに見つかってしまうとは運が悪い。それに本人も目覚めたようだ」
「早くその身体から出ていったらどうだい?」
「仕方ありませんね」
突然身体を動かす感覚が戻ってきて、倒れそうになり床に膝をついた。身体を乗っ取られていたのか。目の前に現れたのはパイナップルヘアの男。前のパーティで来ていた女性にどことなく似ている。
しかし同盟ファミリーと言えど、攻撃され身体を乗っ取られたわけだ。武器のカードに雲の炎を纏わせ、六道骸に投げつけた。
「おや?」
意図も簡単に落とされてしまったが。
「君じゃ力不足だよ」
マーモンに言われ大人しく引き下がる。六道骸は口角を上げ足元に散らばったカードを霧の炎で燃やした。力の差は歴然としているのは分かっている。もっと強くならなければ。
「クフフ……」
「あれ、ししょーじゃないですかー」
空気を読まず現れたのは大きなカエル頭。この人フランの師匠なのか。こんな毒舌になったのはこの人の所為なのか、元からなのかは分からないけど、修行するついでに性格も正してほしかった。師匠とやらも変人そうだから意味はないと思うけど。
フランは六道骸に近付くにつれて頭のカエルをパイナップルに変えていく。幻覚だろう。確かに彼の師匠の頭はパイナップルヘアーだが、己の師匠をこんなにからかう事が出来るなんて尊敬だな。
「フラン。頭をパイナップルにするのはやめなさい。わざとですか?」
「ししょーに近づくとこうなるんですー。ていうか何で此処にいるんですかー?」
「……沢田綱吉に頼まれましてね。そこの娘を連れ戻してほしいと」
一気に私に視線が集まった。ツナさんに言われたって事は、もう兄にも私がヴァリアーにいることはバレているのか。
「う"ぉぉい! 何の騒ぎだぁ!?」
「クフフ。ここは騒がしいですね」
「六道骸! ヴァリアーに何の用だぁ!」
「こいつを取り返しに来たんだとよ。ししっ」
ベルが私を指差すとスクアーロと目が合った。そして舌打ちした後、後ろから私の首に手を回した。
「ちょっ、何?」
「うちのボスからの伝言だぁ! ディアナは暗殺部隊ヴァリアーの雲の守護者候補にする。そうアイツらに伝えておけぇ」
「ハァ?」
ヴァリアーの雲の守護者候補? 何言ってんのこの鮫。というかあのボス。此処で強くなりたいとは思ってたけど、守護者になるつもりはない。反論しようと息を吸った瞬間、スクアーロの手によって口を塞がれる。
「黙ってろ」
耳元でぼそりと呟かれた言葉。今は黙っていた方が良いのか。あのパイナップルが帰ってからでも反論はできる。今優先すべきなのは彼が私を引き戻すのを諦めてくれる事だ。
「短期間で随分気に入られたみたいですね。今日のところは引きましょう。僕は正直この事に興味もありませんから」
「おー、帰れ帰れぇ」
「とっとと帰りやがれー」
「フラン、次会った時覚悟しておきなさい」
「嫌ですー」
スクアーロの言葉に便乗してフランも発言した。本当あの蛙は人をイラつかせる天才だな。しかしパイナップルも帰ってくれた事だし、一件落着だ。
さっきの守護者候補のことをスクアーロに聞いてみると、「嘘に決まってんだろぉ」と鼻で笑われた。めちゃくちゃムカついた。
守られ少女と霧の守護者
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