十七話越前side
苗字名前。俺より少し身長が高くていい気になった気に食わない女。
大人しい性格だと思っていたら、あのチビがムカつくなんて手塚部長に言っていた。
結局テニスで勝負することになったが、テニスをやったことあるのかと聞けば「ちょっとなら」と返ってきたので初心者ではないということは分かっている。
不二先輩のラケットを借りてコートに立った苗字名前は先程までのおどおどした態度とは違い、引き締まった顔になっており同時に殺気のようなものまで出していた。
サーブ権を譲り右手でラケットを持つ。苗字のトスは綺麗に上がり、強力なサーブがくると思いきやそうでもなかった。
「(何だ、全然ダメじゃん)」
これじゃ相手にならない。と軽く打ち返すと相手も軽く打ってくる。
「(あれ……?やるじゃん)」
点は自分が全てとったもののラリーはまぁまぁ続いた。一ゲームだけという手塚部長との約束だったが、もう少し苗字のテニスを見たかったので止めずにそのままコートをチェンジした。部長は何も言わなかったので良しとしよう。
チェンジコートの時に「まだまだだね」と言ってやったが返事はなかった。顔を見ると無表情。何も考えていないように見えた。
その行動に少しイラついたのでツイストサーブをお見舞いしてやることにしたが、案の定苗字は打ち返せない。
周りから少しブーイングを受けたが気にしないでおく。
しかし四球目、苗字はきっちりとツイストサーブを返した。返せないだろうという予想を覆され、予想外の出来事に体が動かなかったがそのボールはアウト。少し甘く見て油断していたと反省。
その後はまたサーブ権が変わりラリーが続く。勿論手加減はしている。しかし俺が浅いボールを打つと苗字はバックスピンで、俺のコートにボールを入れた後バウンドして自分のコートに戻ってくるように回転をかけていた。単純な技だがいきなりのことに驚きを隠せなかった。
同じ技を返そうとしたら、隣のコートで練習をしていた桃先輩の打ったボールが苗字に直撃しぶっ倒れた。
「やべー!当たっちまった!大丈夫か!?」
「……はぁ」
コートに倒れて返事がない苗字を見て溜息を吐く。
大人しいけど負けず嫌い、弱そうに見えて予想外な事をしてくる。苗字名前……面白いじゃん。
まぁでもテニスの腕はーーーー
「まだまだだね」