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君から話しかけられた時、恋に落ちたんだ




黒尾にずっと片思いしている夢主が研磨に相談している話
研磨→夢主→黒尾
※クロはほとんど出てきません
文章力がないので書きたいことが上手く書けませんでしたが、あとは貴方のご想像にお任せします。



「それで廊下で友達と話してる黒尾がカッコよくて! あー! なんでクラス同じじゃないの!?」
「……」
「ねぇ研磨聞いてる!?」

 ピコピコと鳴るゲーム音。一つ下の学年の研磨は私に見向きもせずゲームに集中していた。耳元で騒ぐと、やっていたゲームを消してこちらに嫌そうな顔を向ける。

「なんで俺に報告するの」
「こんなこと相談できるの研磨しかいないじゃん。絶対口外しないし」


 中学一年生の時からずっと私は黒尾に片思いしている。身長の高さに目を惹かれ、クールな人かと思ったら笑った顔が可愛くて意外と面倒見が良くて。黒尾の後ろの席になった時、黒板見える? なんて話しかけてくれて、大丈夫だよと返すとほんとかよと彼は笑った。その笑顔で私は恋に落ちた。彼にとってはただの同級生、私にとっては何年も想っている相手だ。
 ずっと目で追っているうちに黒尾には仲の良い幼馴染がいることを知った。黒尾とはタイプの違う子だけど同じ部活に入っていた。高校二年生の時に廊下ですれ違い、彼もこの高校に入学したんだとつい声をかけてしまった。中学の頃から放課後は毎日男子バレー部の様子を遠くから見ていた私を研磨は認知していたようで、私が声を掛けたら「ああ、いつもクロを見てる人か」という目を向けられた。
 黒尾には話しかけれないのに、研磨には嫌がられてもめげずに話しかけれる。クラスの人達ともすぐに仲良くなれていると思うし、私は恋する相手だけには行動できないタイプなんだと思う。一年も経たずに研磨とは名前で呼び合う仲になり、私が黒尾に恋していることを知っているが、それを本人には絶対に言わず隠してくれている。私が好きな人の前では話せないタイプだと知っているのか、はたまた面倒なだけなのか特に本人に紹介もしたりしない。それが良かった。それに研磨から聞く黒尾の話は私が知らないことばかりで、聞いていて楽しかった。

「研磨とはこんなに仲良くなったのに何で黒尾には話しかけれないんだろう」
「別に仲良くなってない」
「えー」
「そろそろクロ来るよ」
「! えっとじゃあ、部活頑張ってね」

 放課後の部活までの時間、研磨の教室で話すのが私の日課だ。黒尾が研磨を呼びに来る前に私は教室を出て遠くからバレー部の様子を見に行く。決して黒尾とは会わないようにして。
 教室のドアに手をかけた時、研磨が静かに口を開いた。

「……ずっとこのままでいいの?」
「意地悪だね、研磨は」

 行動出来なくて五年以上片思いしているのに。彼も私ができないと分かっていてそんなことを言うのだろう。





 休日、美容院の帰りに駅で黒尾を見かけた。沢山の人がいる中で出会えたのは奇跡かもしれない。いや運命かも。嬉しくて思わず声を掛けた。私声掛けれたんだと他人事のように思う。黒尾の瞳に私が映る。それだけでドキドキして顔が熱くなるのが分かった。彼は私に偶然だなと言って足を止めてくれた。どうしようもなく嬉しくて涙が出そうだった。今日はなんだかいけそうな気がする、と謎の自信をつけた私は会話を続ける。

「今からどこ行くの!?」
「飯食いに行くとこ」

 じゃあなと言って私に背を向けて歩いていく。急いでいるのかな、会話終わっちゃった。どんどん小さくなっていく背中を見つめて溜息がこぼれる。折角休日会えたのに私はこれで良いの?
 美容院に行っていつもより綺麗な髪だし、格好も奮発して買ったお気に入りの服だし今日は行動出来るのかもしれない。私は一歩踏み出し、黒尾の背中にもう一度声を掛けた。

「あの、わ、私も行ってもいい……?」
「あー、今からデートなんだよねぇ」
「え!? だれと!?」

 思わず聞いてしまった。いつもならそんなこと聞けないのに、デートの相手は誰だろう、同じ高校の人かな。休日なんだからデートするよね、こんなにかっこいいしモテるんだし。黒尾は頭を掻きながら私から目を逸らし、クラスの女子の名前を言った。

「え、あ、そっか。じゃあ、ね……」

 一歩、後退りしてから来た道を戻る。心拍数が上がって視界が回った。デートか……それも同じ学校の人と。さっきの目を逸らした黒尾の顔を思い出す。気まずそうな顔だった。なんでお前に言わなきゃいけないんだって、絶対そう思われてた。私が黒尾のこと好きなのバレたかもしれない。聞かなきゃよかった。話しかけなきゃ良かった。……でも話しかけなかったらもっと後悔していたかも。また私は彼に話しかけることができなかったんだって。
 だから私は行動することが出来てすごい。今日の私はすごい。

「…………っ、」

 回っていた視界が波のように揺らいで、目から想いが零れ落ちていく。なんであんなこと聞いたんだろう。ちゃんと答えてくれたのに走り去るなんて嫌われただろうか。なんだアイツって呆れられただろうか。楽しんできてねって言葉くらい掛けれなかったのか私は。涙が地面に落ちていく度、後悔も零れ落ちていく。

 誰もいない場所を探して静かな公園のベンチに腰を下ろした。この顔じゃ家に帰れないし、今は一人になりたい。



 翌日の月曜日。泣き腫らした目が醜くて家族にも友達にも驚かれた。感動するドラマで泣き過ぎたと嘘を吐いて誤魔化した。少しでも目を隠せるようにストレートアイロンで前髪を伸ばす。黒尾のことは視界に入れられなくて、バレー部も見に行けずにそのまま帰った。

 火曜日。水曜日。木曜日。バレー部を見に行けない日々が続く。今まで欠かさず見に行っていたのにこんなことは初めてだ。別にフラれたわけではないのに黒尾を見るときっと泣いてしまいそうだから行けなかった。こうして彼のことを考えているだけで泣きそうだった。

 金曜日の放課後、部活に向かうクラスメイトが別れの挨拶をしながら教室を出ていく。窓から見えるグラウンドには野球部や陸上部が部活の準備を始めている様子が見える。中学から六年間、私は帰宅部でずっとバレー部にいる黒尾を見てきた。何か部活に入っていたら別の人を好きになって交際してたりしたのかな、なんて違う未来も考えてみたけど切なくなるだけだった。
 静かな教室にこちらに近づいてくる足音が聞こえた。誰かが忘れ物を取りに来たのだろうか。窓の外を見つめてそんなことを考えていたら、足音は私の横で止まってドキリとする。

「最近部活見に来ないのは何で? クロと何かあった?」

 思わず身体が跳ねた。振り返らなくても誰だか分かるが、分からないのは少し怒った声色。別に私がバレー部を見に行かなくても彼は困らない。部活前に教室で話していたのだって、ゲームに集中できないと彼は嫌がっていたはずだ。何故会いに来たのか、少しでも気にしてくれていたってことなのだろうか。

「答えないならクロに直接聞くけど」
「っ、だめ!」

 踵を返した研磨の腕を掴む。上から見下されたように鋭い視線が私に突き刺さった。

「じゃあなんで」
「……、研磨に関係ないじゃん」
「……」
「私の事うざいっていつも思ってたでしょ。何で来てくれたのか分からないけど、放っておいて」
「そうだね」

 彼は私から視線を逸らし、背中を向けて去っていく。それが黒尾と重なって泣きそうになった。
 嫌われるのが怖いのに、口から出る言葉は嫌われるようなものばかり。研磨は呆れて今後一切話してくれないかもしれない。いつも放課後、話を聞いてくれてたまに彼からも話してくれる。その時間が楽しくて心地よかった。すぐに謝ったら許してくれるだろうか、もう拒絶されてしまうだろうか。折角仲良くなったのに、友達を失いたくない。
 教室から出ていった研磨の後を追いかけて走った。彼の向かう先はきっと体育館だ。体育館に繋がる廊下で彼の後姿を見つけて大きく息を吸った。

「けんまーー!」
「!!」
「ごめん! 折角来てくれたのに酷いこと言って」

 肩で息をしながら研磨を見ると、彼は目を見開いて驚いていた。返事されなかったらどうしよう、また目を逸らされたらどうしよう。不安なことはそうなってしまうようで、彼は私から目を逸らした。

「体育館そこだけどいいの?」
「えっ、あ、そうだね。でも、研磨に謝りたく、て……」

 研磨の後ろは体育館で、バレー部員がネットの準備をしているのが見える。こんなところで騒いだら黒尾に見られるかもしれない。でも今はそれよりも大切な友達を失いたくない。
 ゲームを邪魔された時のような嫌そうな顔が、足音を立てて近づいてくる。彼にしては珍しく感情が出ている。そのまま私の腕を掴んで体育館の裏側に向かった。体育館の中は騒がしいが裏側は静かで、今から何を言われるのかとこのシンとした空間が更に私を緊張させた。研磨は私の手首を持ったまま、顔を下に向けて話を切り出した。

「……うざかったら放課後教室に居ないし、返事もしない」
「え、うん……」
「いつもみたいに聞いてあげるから話せば? 隠されてるとなんか……腹立つ」
「腹立つって……研磨、今日変だよ。でも……今優しくされたら泣くから、やめて……」
「いいよ、泣けば」

 彼に拒絶されなかったという安心感で胸がいっぱいになった。いつもの研磨じゃないみたい。弱ってる人間には優しいのかな。みっともなく泣きながら日曜日の事を研磨に話した。黒尾の気まずそうな顔をまた思い出して胸がズキリと痛んだ。
 私が話し終わると研磨はバッグからタオルを出して渡してきた。彼の素っ気ない優しさが伝わってきて冷えていた心が温まった気がした。涙を拭ってハッと我に返る。

「ごめっ、部活の時間」
「いいよ、別に」

 体育館で研磨を呼ぶ声が聞こえる。その中に黒尾の声もあって、また涙が出そうになったけど我慢した。

「研磨、こんなとこにいたのか。皆探してんぞー」
「……うん」

 体育館裏のシャトルドアから出てきたのは夜久だった。同じクラスになったことはないけど、バレー部員だから勿論知っている。夜久は私と研磨を見て「邪魔したか?」と聞いてきた。研磨の部活の邪魔をしているのは私だから、二人に謝った。

「大丈夫大丈夫。今日は委員会で遅れてくる奴多いし。それで二人はとうとう付き合ったのか?」
「え、いや違う! 研磨とは友達で……」
「研磨、ずっと見てたもんな」
「見てない」

 あらぬ誤解が生まれて、研磨が嫌がるだろうから早く否定しなければ。

「ち、違うの。私が別の人を見てて」
「あぁ、知ってるよ。君が黒尾を見てたのは」
「え!?」
「黒尾に夢中で気づかなかったんだろうけどさ、研磨はずっと見てたんだよ」

 研磨は見てたって、私のことを? どういうこと?

「えっ!?」
「……」

 バッと研磨に顔を向けるとばつが悪そうに眉をひそめていた。サラリとした髪の隙間から見える耳はとても赤くなっていて、それが私の顔に移った。




「(また来てる。一年間ずっと。クロのこと気になるなら話しかければいいのに)」
「どうした研磨」
「何が」
「遠く見て面白そうにしてたけど。面白いゲームの新作でも出たのか?」
「うん」
「へぇ、俺にも教えろよ」
「やだ。クロには教えない」

 彼が中学二年生の春、部活の休憩中に遠くで隠れているつもりの女を見て目を細めた。
 そして高校一年生の春、彼女に声を掛けられて興味が恋に変わった。



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