×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

トリップ松





見知らぬ街に来てしまったようだ。正しくは見知らぬ世界なのかもしれない。ここはどこ私は誰状態です。自分の名前は覚えているけど。私の知っている世界とはまた違う様な違わない様な、変な違和感を覚えるところ。

大学が自宅から遠く、通学時間短縮の為に大学生二年目から地元を離れて一人暮らしすることに決まった私は、この街に訪れた。しかしどこか違う。あり得ないことだが、もしかしてトリップ? なんて考えたり。しかし、地元にいる家族や友達とは連絡も取れるし会うこともできる。ただの私の勘違いなのだろうか。

大きめの手提げカバンを地面に置き地図を広げる。そして立ち止まって辺りを見渡していると、「迷子?」と後ろから声をかけられた。

「あ、いえ……っ!?」
「?」

おおおお、おそ松さんじゃないですかぁぁぁぁ!? え、えっ? えぇぇぇぇ!! 私、もしかしておそ松さんの世界に来てしまったのですか!?

突然息が荒くなった私を見て、おそ松さんは「え、どうしたの!?」と焦っている。あれ、この人もしかしておそ松さんじゃない? よく見ればピンクのパーカーにニット帽、ロールアップしたジーンズ。トド松さんだ。

「だっ、はっ……だいじょ、ぶでっす」
「近くの公園で休んだ方がいいよ。ほら行こ」

ふ、触れられてる。手首持たれてる。どうしよう。私の目の前にトド松さんが歩いておられる……!


バクバクと心臓が煩いまま公園のベンチに座ると、トド松さんが缶ジュースを買ってきてくれた。お礼を言ってジュースを口にすると、少しだけ落ち着いてきた。

「すみません。ありがとうございます」
「ううん全然。落ち着いた?」
「はい。……あ、ジュース代」
「気にしないで。代わりに君の名前教えて欲しいな」
「苗字名前です」
「名前ちゃんね。僕は松野トド松」

うわぉ、ビンゴ。トド松さんだった。れ、連絡先聞いてもいいかな。一生分使ってしまった気がするこの運、無駄にしたくない。勢いよく立ち上がりトド松さんの前に立つ。

「あああああの、連絡先とか……聞いても、というか交換してくださいませんかっ!」
「え?」
「今日のお礼もしたいなー、なんて。……ご迷惑じゃなければですけど」
「ぜっんぜん迷惑じゃないよ! 交換しよー」
「ありがとうございます!」

うわぁぁ! アドレス帳にトド松さんのお名前が!! あぁ、私もう死んでもいい。

「そういえばそれ、大きなカバンだね」
「あっ、今日引っ越してきたんです」
「そうなんだ! 家この辺?」
「もう少し行ったところだと……思います」

「僕、この辺にずっと住んでるし詳しいよ。よかったら案内しよっか?」

いいいいいんですかぁぁぁ!? 何なの!? トド松さん優しすぎる!! お礼を言いながら家の場所を地図で指差すと、「近所だ」と嬉しい言葉が返ってきた。近所!? 松野家のですか? ありがとうございます!!

「カバン持ってあげるよ。行こ」
「は、はいぃぃぃ」

ほ、惚れてしまいそうです……。




********************


「ここら辺かな」
「あ、このアパートです。ありがとうございます」
「やっぱり近所だー。僕の家、ここから五分くらいの所なんだ」

そんな近い所に松野家の六つ子達が……っ! 嬉しくて涙出てきそう。

「これから家の片付けとか大変だよね」
「そうなんです。あっ、荷物ありがとうございました」
「うん。また困ったことあったら言ってね。じゃあ僕はこれで」
「今日は本当にありがとうございました。その……また連絡してもいいですか?」
「モチロン。いつでも連絡待ってるよ」

ウインクをしながら手を振って歩いて行ったトド松さん。松野家はあっちなのか……って、私なんて良い経験をさせてもらったんだ。ありがとうございます。



新しい家の鍵をガチャリと開けてカバンを玄関に置く。今日からここでの生活が始まるんだ、と大きく息を吸った。



|back|