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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -

バイト先に松




「いらっしゃいませ、こんにちは」

営業スマイルを作り、マニュアル通りの挨拶をする。ドラッグストアのアルバイトを始めて早一年、仕事にも慣れて作業もそつなくこなしていた。
店長やパートさんや他のアルバイトの人達は親切だし、たまにお客とする世間話も楽しかった。

レジで挨拶をしてお客から商品を受け取る。そしてポイントカードを持っているか尋ねて持っていればカードをレジにスキャンする。持っていなければ、カードを作るか聞く。ポイントカードを作るには申し込み用紙の記入が必要で、名前やら生年月日やら個人情報を書かなければならない。さてこんなつまらない話は置いておいて、不思議な出来事が起こった日の話をしよう。


その日は同じ人が三回カードを作った。

一回目は、「君かわいいねー。また来るよ」とポイントカードを作って行った。

二回目は、「また新たなカラ松ガールが……」とよく分からないことを言ってカードを作った。営業スマイルが好意があるように受け取られたのだろうか。

三回目は、「はい。お願いします」とぺこりと頭を下げてカードを作った。


そんな事があったのは三日前の話。そして今日、また同じ人がやって来た。レジの前を通る時にキャットフードはどこにあるのかを聞いてきたが、うちでは取り扱っていないのでその事を伝えると、煮干しを持ってレジに来た。うちのドラッグストアは少しだけ食品も取り扱っている。

「ポイントカードはお持ちですか?」
「……ない、けど」

またか。何枚カード作るんだろう。

「作りましょうか?」
「いらな……やっぱいる」

会計が終わると、申し込み用紙に記入してもらう。今日は猫背だし髪乱れてるし目がぼーっとしてる。寝起きなのかな。書き終わりペンを置くと、その人は無言でスタスタと出て行ってしまった。


「お茶五十円!? やっす! これ買いマッスル」
「あ、ありがとうございます」

数時間後、また来た。服装もテンションも全然違うけど、さっきの人だよね。ポケットから五十円玉を出し、申し込み用紙に名前だけを記入して元気に去って行った。いつの間に申し込み用紙とペン取ってたんだろう。



「ここのドラッグストアっていつできたんですか?」
「いらっしゃいませ。えっと、一年前にオープンしました」

えぇぇさっき出て行ったばっかりだよ!? 何でだ。何でまたいるの。怖いんだけど。でもさっきとは違って帽子被ってるし、ピンク色のパーカー着てるしテンションもめちゃくちゃ高いわけじゃない。そしてまたその人はカードを作った。


「全然知らなかった。ここ安いしポイントカードも作ったしまた来ます」
「ありがとうございます」
「店員さんの笑顔も素敵だしね」
「えっ? あっ、ありがとうございます」

もしかして、服の色を変えると性格が変わる多重人格だったり?




……なにそれ、すっごい面白い!!

私は多重人格の人に少しでも会える機会を増やすために、店長に頼んで来月のバイトの時間を増やしてもらった。面白いお客さんがいたらバイトも楽しくなるよね。




********************


それから早一ヶ月。多重人格と思われる人とほぼ毎日顔を合わせていた。世間話をするまで進展したのだ。相変わらず性格がコロコロ変わって合わせるのに難しいが。

あ、今日も来ました多重人格さん。レジに立つ私と目が合うなり口を大きく開けて笑った。恐らく私より年上なはずなのに可愛いな、なんて思ってしまう。

「苗字さんだ!! こんにちは!」
「はい、こんにちは」
「今日はねー、お金持ってきてないんだ」
「そうなんですか。あ、あのどうして私の名前を?」
「レシートに書いてた!」
「あぁ、そうでしたね」
「苗字さん! 僕松野十四松!! やきゅーが好きだよ」

「……あ」
「?」
「?? あ! 一松兄さん!!」
「十四松。何でここに」
「最近よくココに来るんだ!」

……? えっと……兄弟? めちゃくちゃそっくり。


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