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モブサイコ夢




周りをよく見ているね、と他人からいつも言われる。私は相手が何を考えているのかも大体予想できる。初対面の人でもその人がどういう人なのかが予想できてそれが大概合っている。大人数で遊んでいても一人一人の小さな表情の変化を見逃さない。兎に角、私は周りに目を向けるのが得意である。

だから、友人と話しながら歩いていても、路地裏で一人で話している男の子を見逃さなかった。

「どうしたの、名前」

『あぁ、うん。あれ』

何かと話している男の子を指差すと、友人は驚いた顔をした。無理もない、周りには誰もいないはずなのに、男の子の服が誰かに引っ張られているように見えるのだから。男の子は声を上げながら何かを振り払うように、腕をブンブンと回していた。

「え、ちょっとどうなってるの」

『わからない。でも助けなきゃ』

そう言って男の子の方へと向かおうとするが、友人に手を引っ張られ止められる。

「何も見えないんだから、どうする事も出来ないでしょ」

『うっ。まぁ、そうなんだけど……』

暫くその男の子を遠くから見ていると、解決したのか何なのか、何でもない顔でその場から立ち去ろうとしていた。

『あ、さっ、先帰ってて!』

「はいはい。行ってらっしゃい」


あの子には何かある。平凡だった私の日常を変えてくれる。そんな期待を抱いて男の子の元へと走った。学ランに身を包む後ろ姿に声をかける。


『ねぇ!君!』

「えっ、あ、はい」

『さっきの。大丈夫だった?』

「……見られてたんですか。だ、大丈夫です」

声掛けたは良いけど、この後何を話せばこの子と関わりを持てる? そんな事を考えて次の言葉を出せずにいると、男の子が前から歩いてきた男性にぶつかり私の方へとよろけた。

透かさず両手を広げたものだから、軽く抱き合う形になってしまった。身長が同じくらいだから、顔の距離も近い。

「すみませっ……!?」

『あ、顔真っ赤』

「っ!」

試しにぎゅっと抱きしめてみると、更に顔を赤くしていて思わず笑ってしまった。

「なっなっ、んで……」

『ねぇ、私と』

抱き締めたまま耳元で囁くと、肩を上げて目をぎゅっと閉じていた。

「は、はは……いっ」


「モブ?」

不意に近くで男性の声が聞こえた。振り向いてみると、スーツを着た金髪の男性。どうやらこの子と知り合いのようだ。

「し、師匠」

「何だお前、年上の彼女がいたのか」

焦る姿をもっと見たかったけど、邪魔が入ってしまった。抱き締めていた腕を緩めると、ホッとしたような顔でその子は離れた。それでこの男性は何? この子の何の師匠?

『モブくんね。じゃあ、またね』

「えっ?……は、はい」

「?」

見た感じ塩中学の生徒かな。よし、明日からモブくんに会いに行こう。彼に友達になってほしいって言おうとしたけど、また今度でいいや。


********************


次の日、塩中学校の校門前で、色んな子にモブ君を知らないかと声をかける。中々知ってる人はいないみたいだけど、もしかしてモブって名前じゃない?


「……兄さんに何か用ですか」

後ろから声をかけられ振り向くと、黒髪の少年が立っていた。キリッとしていて異性にモテそうだなぁ。兄さんにって事は、この子もしかしてモブくんの……。

『えっ! 弟!? かわいい!』

「……」

モブくんとは性格が違うっぽいな。抱き締めたら殴られそう。ていうかめっちゃ警戒してくる。この子にはしっかりしたお姉さんを演じないと、相手してくれなさそうだなぁ。

『モブくんとは知り合いなの。それで一緒に帰ろうと思ってて。弟くん、どこにいるか知ってる?』

「知り合い……?」

信じてない顔だ。うーん。これは教えてくれなさそう。それに他に理由も見つからないし、今日はモブくんに会うのを諦めよう。

『まぁいいや。偶々通りかかっただけだから。じゃあ弟くん、一緒に帰ろう』

「……」

『えっ、ちょっと! 通報しようとしないで!?』

私の言葉を無視しスタスタと歩いて行くので、後ろをついて行く。途中でアイスを売っている屋台があったので、二つ買って弟くんの元へと駆け寄る。

『ねぇ、弟くん。アイス食べよ!』

「……いりません」

めちゃくちゃ嫌そうな顔をされた。この子と話す度メンタルがやられる。

『でも二つ買ったしさ……わっ! ととっ』

足元の小さな段差に気づかなかった私は、足をとられ転倒しそうになる。……が、横にいた弟くんが私の前に素早く手を出した。

『ありがとう』

「鈍臭いですね」

『だって弟くんがアイス食べてくれないんだもん』

「僕のせいですか」

幸いアイスは二つとも無事だったし、一人で食べれば良いか。不意に横からスッと手が伸びてきて、私の手からアイスを一つ取った。

『ふふっ、やっぱりお腹減ってた?』

「返しましょうか」

『ううん! 一緒に食べよ』

二人で並んでアイスを食べる。アイスを食べる弟くん、かわいい。アイスじゃなくてこの子を舐めたい。

「兄さんとどこで知り合ったんですか」

『うーん、街中かな。モブくんが抱きついてきて』

「あなたの妄想話は聞いてません」

『うぐっ……本当だもん。事故だけど。強いて言えば偶々私がモブくんの変わった力を見て追いかけただけ』

「兄さんの超能力を……?」

モブくん超能力者だったのか。成る程。また何か見せてもらいたい。

『ところで弟くん、名前なんていうの?』

「兄さんは何かに巻き込まれてたんですか?」

むっ、聞いてないな。この子、お兄ちゃん大好きっ子かな。

『名前教えてくれたら、教えてあげる』

そう言うと弟くんは舌打ちをした。この子さっきから年上に対して失礼じゃないか? 一応敬語はつかってるけど。

「……影山律」

律くんかぁ。あだ名はりっちゃんかなぁ、なんてニヤついているとギロリと睨まれた。仕方なく昨日あった出来事を一から教えると、律くんはまたアイスを食べて歩きだした。

「あなたはいつまで付いてくるんですか」

『えへっ。影山家まで?』

「ストーカーですか。通報しますね」

『わぁぁ! 帰るからー!』

「兄さんのストーカーはやめて下さいね。僕何するか分かりませんよ」

『えっ、ナニするか分からない……!?』

「何を考えているのか知りませんが、頬を染めないで下さい。気持ち悪い」

『もー、じゃあまたね。律くん』

律くんの頭を優しく撫でると、反応に遅れた彼は「触るな」と言って目を逸らした。モブくんも律くんもかわいいな。中学生最高かな。




********************


そしてまた次の日、校門でモブくんを待つ。するとまたもやモブくんの弟、律くんが現れた。手を振りながら笑顔で迎えると無表情でそのまま近付いてくる。

『りっちゃん! 昨日振りだね』

「またあなたですか。あとその呼び方やめろ」

「昨日のデート、楽しかったね」と微笑むと、眉間にしわを寄せてドン引きされた。そんな顔してもかわいい。

「兄さんは今学校にいませんよ」

『えっ、もう帰ったの?』

「部活です」

どの部活か聞こうとしたら、律くんはスタスタと校舎に戻って行った。もしかしてわざわざ言いに来てくれたのかな。

『律くーん! ありがとう!』

「ずっとそこにいられても迷惑ですから」

素直じゃないなぁ。部活で学校に今いないってことは、外で何かする部活なんだよね。野球部の走り込み? それとも山岳部とか? ……いやいやモブくんの体型を見る限りでは、運動するような感じではない。寧ろ全くできなさそうな。

学校の近くをモブくんを探して歩いていると、ガタイの良い団体が走り込みをしていた。凄い鍛え上げられた筋肉だなぁ。私の前を通る時に「ナイス筋肉」と親指を立てると、大声でお礼を言われた。はぁ、愛しのモブくんはどこにいるんだろう。


「はっ、ゼー……ッ、ヒュー……」

汗だくで涎まで垂らしながら走っているモブくんを発見した。もしかして、あのガタイの良い人達と同じ部活なの!?

『モブくん!』

「はっ、えっ? ……っ」

私に気づいたかと思えば、彼は……倒れた。木陰までモブくんを移動させると、ナイス筋肉の人達が心配した様子で此方を遠くから見ていたので、モブくんの事は任せてほしいと伝えると彼らはまた走り出した。

腰を下ろし鞄からハンカチを取り出す。そしてモブくんの頭を私の太ももの上に乗せ、汗を拭ってあげる。赤く染まった頬に、汗で体操服が張り付いた身体。

……どうしよう、鼻血出そう。左手で自分の鼻を押さえながら、右手でモブくんの頭を撫でる。かわいい、かわいいよモブくん。

『モブくん……』

「……ん、あ、あれ?」

『おはよー。膝枕、気持ちよかった?』

モブくんは暫くボーッとした後、頭で状況を整理していたみたいで、先程拭いた汗がまた噴き出た。

「す、すみません! 何で僕……」

『まだ頭置いてていいよ』

勢い良く上体を起こすモブくんの肩を掴み、太腿へと戻す。混乱した表情をしていて、思わず笑みが溢れてしまった。

「あ、あの……」

『部活の人達にはモブくんは任せてって伝えておいたよ。ところで何の部活に入ってるの?』

「肉体、改造部です」

肉体改造部か。通りで皆ナイス筋肉なわけだ。モブくんはまだまだっぽいけど。

「そろそろ学校に戻らないと」

少しフラつきながら立ちあがるモブくん。私も鞄を持って立ち上がると、綺麗な夕焼けが目に入った。

『あ、そうだ。私、苗字名前。よろしくね』

「影山茂夫です」

名前、モブじゃなくてシゲオだったんだ。まぁいいか、モブくんで。あだ名みたいだし。

『じゃあまたね』

「はい。……あっ、」

くるりと体を後ろに向けると、自転車が迫ってきているのに気付かずにぶつかりそうになる。咄嗟に避けると、芝生の下り坂に足を滑らせてしまった。下は河原だ。このまま落ちると軽い怪我ではすまない。

『っ、…………あれ?』

いつまで経っても痛みがやって来ない。というか下に落ちている感覚がない。反射的に閉じていた瞼を開けると、私の身体は宙に浮いていた。

「大丈夫ですか?」

『ま、まじか……』

そういえばこの子って超能力者なんだっけ。モブくんの指の動きに合わせ、私の身体が動く。足が元いたところに着地すると、ホッと安心した。

『律くんから聞いてたけど、すごいね。念動力っていうのかな』

「えっ、律と知り合いなんですか」

『うん。昨日デートして今日もさっき会ってきたよ』

「えぇぇぇ」

律くんと違ってこの子は素直に驚いてくれるから、見ていて面白いなぁ。それにしても優しい兄弟だ。昨日は転びそうになったところを律くんに助けてもらったし、今日はモブくんに助けてもらったし。

モブくんと別れた後の帰り道、私の日常が変わっていくのを感じた。


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