告白現場
立海大付属のテニス部レギュラー達の間で最近おかしな噂がたっていた。
「え、名前が!?その話マジなのかよジャッカル」
「あぁそうみたいだぜ」
「俺も聞いたナリ」
丸井、桑原、仁王の三人は昼休みに昼食を食べながら彼らの所属するテニス部のマネージャー、苗字名前の話をしているようだ。
すると屋上のドアが開き、パンを持った切原が三人の元へ走って来た。
「ッス!何の話してたんスか?」
「最近、苗字が部活の帰りに他校の男子とデートしてるらしくてさ」
「はっ!?」
「部員の数人が見たらしいぜぃ」
「あの名前ッスよ?何かの見間違いじゃ……」
「そうですね。苗字さんが慣れている異性はまだ我々しかいないのではと思っていたのですが」
「うわっ!?柳生先輩」
「もしかして仁王か……?」
「俺はここにいるナリ」
いきなりの柳生の登場に驚く切原、桑原、丸井。仁王の変装と疑うが、そうではなかったようだ。
「まぁ柳生の言う通りだな」
「でも何人かが目撃してんだろぃ」
「じゃあ今日確かめましょうよ!!」
「よし!ここにいる全員強制参加だってジャッカルが言ってたぜ」
「いや、言ってねーよ」
「相手がどんな奴なのか楽しみぜよ」
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部活が終わり、一人早々と部室から出て行った苗字の後を昼休み集まった五人のメンバーがこっそりと追いかける。
学校の門から少し離れた所で苗字が声を掛けたのは、青学の不二周助だった。
『す、すいません。待たせて……しま、って』
「全然待っていないよ。マネの仕事お疲れ様」
『あ、不二先輩も……お、疲れ様、です』
「クスッ、ありがとう。昨日は色々と見て回ったから、今日は近くの公園で話そうか」
『は、はい』
「あれってどう見てもカレカノっスよね」
「名前が……」
「噂はマジだったか」
「まだ付き合ってるのかは分からんぜよ」
「そうですね。友達として会話しているだけかもしれませんし」
「しかし昨日も会っていたのだろう。二人が付き合っている確率は極めて高いな」
「俺の目を盗んでいつの間に進展したんだい?」
「交際などたるんどる!」
つとめて自然に会話に入ってきた柳、幸村、真田の三強に驚きを隠せない五人。結局立海のレギュラー全員が集まってしまった。
公園のベンチに腰掛け話をする不二と苗字。そして会話が聞こえるように近くの木にそれぞれ隠れるレギュラー勢。傍から見るとこの八人は不審者そのものだ。
彼らに苗字は気付いていないが、実のところ不二は気付いていた。
仲良く話している二人を見て複雑な顔をする八人。不二はそれを横目に心の中でクスリと笑った。自分の中にある悪戯心に火がついたのだ。
不意に不二が苗字を真剣に見る。まだ不二に対して慣れていない苗字はずっと下を向いていたが、視線に気付きチラリと不二の顔を見る。
見つめ合い良い雰囲気を放つ二人に焦るレギュラー達。そして不二は苗字の手を取り口を開いた。
「苗字さんとこれからもっと沢山会いたいな」
『…………』
突然の告白を目の前にしたレギュラー達は、動揺を隠しきれなかった。
切原は頭を抱えながら何かブツブツと呟いているし、丸井は地面に頭をなすりつけている。柳生は眼鏡をガタガタと上下に揺らしており、仁王はひたすら雑草を抜いている。桑原は息をするのも忘れずっと固まっていて、真田も五感が奪われたかのように微動だにしない。
柳と幸村はどう不二を仕留めようか作戦を練っていた。
「昨日も今日も一緒にいてすごい楽しかった。もっと、ずっと一緒にいたいなって思ったんだ……」
そう言って苗字の頬に手を添え、口を近づける。
『…………』
「「「ちょっと待てぇぇぇえ!!」」」
我慢出来なくなった八人は一斉に不二と苗字の間に飛び出す。
『わっ!……えぇ?』
急に現れた見慣れたメンバーに苗字は目を見開き、何故彼らがここにいるのかと混乱する。
「名前!どうなんだよ!」
『えっ?』
「ちょっとぐらい俺達に何か言ってくれてもいいだろぃ」
「そうだぞ。俺は何も相談を受けていない」
口々に言われ、ますます混乱する苗字。それを見て不二は笑わずにはいられなかった。
「ふっ、はは。ごめん苗字さん。さっきの嘘」
『さっきの?』
「うん、告白」
『こ、告白?えっ?』
「……あれ、告白したよね」
『私に?』
「えっ」
『えっ』
人生で一度も告白されたことのない苗字は、先程の不二の告白を告白だと気付いていなかった。天然を通り越してただの馬鹿である。
不二の告白は嘘だということ、そして苗字が不二と会っていたのは、不二の親戚の女の子に渡すプレゼント選びのためだということが分かりホッと息を吐くレギュラー達。
ーー彼らのうち誰が最初に告白するかはまだ先の話。