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わたしじゃない

授業が終わったのを確認し、教室に入る。私は直ぐさまきのちゃんの方へと足を向けた。

『き、きのちゃん。ちょっとだけいい?』

「ひなたちゃん。……いいよ」


渡り廊下に行き周りに誰もいないのを確認すると、私はきのちゃんに頭を下げた。

「ひなたちゃん?」

『下駄箱、掃除してくれてありがとう。それに疑ってごめんなさい』

「あ、もしかして見られてた?」

『ううん。その……幸村先輩が見てたみたいで。本当にありがとう』

「いいよいいよ。友達が虐められてるのを放ってはおけないし」

『……ありがとう』

微笑むきのちゃんを見て泣きそうになる。やっぱりきのちゃんは良い子だ。

「それで、疑ってってどういう事?」

『あ、三年の人達がきのちゃんについて会話してたのを聞いちゃったんだけど、私とレギュラー達の話で、それで……』


「……。私って最近テニス部に入部したばかりでしょ?だから変な噂が広がってて、私も困ってるの」

『そ、そうなんだ。ごめん。疑っちゃって』

「ううん。じゃあ教室戻ろっか」


二人で教室に戻ると、チーちゃんが私の席に座って待っていた。私はチーちゃんの元に行き、きのちゃんも自分の席に戻った。


「さっきの授業大丈夫だった?気分が悪かったの?」

『あ、うん』

「ねぇその教科書……」

『なっ、何でもない』

「ひなたちゃん」

『はい……』

「私達ともだちだよね?」


チーちゃんが真剣な顔で私を見る。誰がこんな事をしたのかまだ分かっていないし、どう説明しようか。

『あのね……』

「うん」

『誰か分からないの。でも上履きも教科書やノートも汚れてたり捨てられてたりで』

「……急ね。最近何かあった?」

『きのちゃんが転校してきたって事ぐらいで』

「じゃあ……」

そう言ってチーちゃんはきのちゃんに視線を向けるので、私は慌てながらチーちゃんの前に移動した。

『さっき話してきて、違うって分かったの。それに私の靴箱を綺麗にしてくれていたのを幸村先輩が見てて』

「幸村先輩の前だから演技したんじゃないの」

ムスっとした顔で頬杖をつく。きのちゃんは良い子だと言っているのに、チーちゃんは分かってくれない。


『良い子だと思うよ』

「うーん。騙されてるんじゃない?」

『そ、そんなことないよ』

「じゃあ誰がやったの」

『分からないけど……』


「もういいよ。でも私はあの子だと思う」

『っ、私は違うと思う』


そしてチーちゃんは溜息を吐きながら席を立ち、隣の自分の席に座った。私も席に腰を下ろした。







放課後になり部活へ向かう。チーちゃんとはあれから口を聞いていない。チーちゃんも大好きだけど、きのちゃんも信じてあげたい。私はどうするべきなのだろうか。


挨拶をしながら部室へ入ると、ざわざわとして異様な空気が漂っていた。そしてレギュラーが私の私物が置いてあるロッカーの周りに集まっているのが見えた。

『あの……?』

「あ、ひなたが来たぜぃ」

ブン太が私が来たことを皆に伝えると、皆気まずそうな顔をする。私のロッカーに何があるのか、顔を覗かせるとレギュラー達の写真や、見覚えのないノートがあった。

『これは……?』

「咲本、これはお前が撮ったものか?」

真田が複数の写真を手に取り、私に見せる。レギュラー達の笑顔やテニスしている姿が映っている。何故私のロッカーにこんな写真があるの。

『違います。私、何のことだか……』

するとガチャリと音を立てきのちゃんが部室に入ってきた。「どうしたんですか」と聞くが、幸村君は「咲本さんに話があるから、先に部活の準備をしていてくれるかい」と、きのちゃんをこの場から去るように言った。


「あとねこのノート、俺達のテニスデータがびっしりと書かれているんだよ。これは?」

幸村君に渡され、ノートに目を通すと私が書く字体そっくりに皆のデータが書かれている。

「これで何をするつもりだったんだい」

「……咲本は他校に知り合いが何人もいる。青学、氷帝、四天宝寺、不動峰、山吹に聖ルドルフ」

「多いな」

柳の口から出た言葉は、いつもの様に優しいものではなかった。確かに喧嘩はしたけど庇ってくれても良いじゃないか。私は今、一番心を許している相手からも疑われている。

苦笑いのジャッカルから向けられるのもいつもの優しい目ではなかった。


このままでは駄目だ。早く否定しなければ。


『っ、』


早く……早く……。

ーー言葉が出てこない。


柳に疑われ、他の皆にも疑いの目を向けられ、私は床を見つめることしか出来なかった。


「この写真とノートは処分するがいいな」

『わ、たしじゃ……なっ』

真田にノートを取られ、私は頑張って否定しようとするが上手く言葉を発することができない。


「そろそろコートに行こうか。咲本さんもよろしく頼むよ」


皆が部室から出て行くと、私はペタンとその場に座り込んだ。見覚えのないものを疑われ皆に冷たい目を向けられ、私は否定の言葉すら言えない。涙を必死に堪えるが、目から溢れ出てしまう。


「なぁ」

『!?』

後ろから声がして肩をビクつかせると、足音は近づき誰かの足が視界に入った。


「さっきのさ、本当にひなたがやったのか?」

この声……赤也だ。私の前にしゃがみ込んで顔を覗き込まれる。頭を横に振ると、赤也は膝をついて私をギュッと抱き締めた。


「……その、さ。先輩達も本気でアンタを疑ってるわけじゃねぇと思うんだよ。俺もアンタがやってないって信じてるし。だからさ、泣くなよ」

抱き締められているという恥ずかしさより、私を信じてくれているという嬉しさの方が上だった。


『ありがとう、ございます……』


「あぁー!俺こういうの慣れてねぇし慰め方も分かんねぇから!…………っ」


そう言って私の前髪を手で上に上げ、額に軽くキスをした。

『えっ……』

「はっ、早く顔洗って準備して来いよ!」


そう言って赤也は早々と部室から出て行った。




わたしじゃない


(一体だれが……)


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