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みんなが離れていく

いつも通り家を出て変わらぬ風景を眺めながら学校に行く。しかし一つだけいつも見ているものとは違ったものが目に入った。自分の下駄箱の中には腐った食べ物や何か書かれている紙、そしてボロボロになった上履き。

紙に書かれた内容を見ると「役立たずは消えろ」「マネージャーを辞めろ」「テニス部に近づくな」と赤色のペンで書かれていた。

『……いじめ、か』

これらは陰湿ないじめなのだと分かったが、こんなベタないじめを受けるのは生まれて初めてだ。これらをした人に受けて立つ気で下駄箱のゴミを片付けずに脱いだ下履きを持って、スリッパを探した。


教室に着くといつもの光景。どうやらうちのクラスの人達はこの件に関わっていないようだ。挨拶をされ挨拶を返す。何故スリッパなのかとチーちゃんに聞かれたが、上履きを家に持って帰ったまま忘れてきたと言っておいた。スリッパは来客用の物を無断で借りてきた。


しかし考えてみると遅かった。何がかって、いじめだ。ある日いきなり転校生がモテモテのテニス部レギュラーと絡み始めるんだよ。今ではマネージャーになってしまっているし。反対に今までいじめがなかった方が不思議だ。

色々と考えているといつの間にか授業が始まっており、机の中から教科書とノートを出そうとするが、ない。いつも教科書等を机の中に入れっ放しにして帰るが、今は机の中には何も入っていない。

チラリと先生を見ると、皆が問題を解いているか確認しに教室内を歩き回っている。そして不意に先生と目が合い、先生が近づいて来る。

「咲本、教科書はどうした『ちょっ、ちょっと気分が悪い、ので……保健室に、行ってきます』」

手で口を軽く押さえ気分が悪そうな顔をしながら教室を出る。教科書がなくて怒られるのも嫌だし、逃げてきた。教科書がないのも靴箱をやった人と同一人物だろう。最もやったのが一人とは限らないが。


『あ、あれって』

学校のゴミ集積所に来てみれば、私の教科書やノートと見られるものを発見した。ゴミをかき分け、自分の物だけを取り出す。少し匂うがそこまで汚れてはいない。

ついでに靴箱も掃除しに行こう。





朝はあんなに汚かった靴箱が何故か綺麗になってる。誰が掃除してくれたのだろうか。汚い靴箱を……ましてや自分のではないものを自ら綺麗にするなんて、とても心の優しい人なのだろう。

心の中でその人にお礼を言って、私は手を洗いにトイレに向かった。



********************


一番近かった三年生のトイレに行くと、授業中にも関わらず中からは複数の女子の声が聞こえた。

「テニス部のマネまた一人新しく入ったよね」

テニス部の話題か……。ドア付近に立ち、外から続く言葉を待つ。

「そうみたいね。咲本とか言うマネは会長から言われてたじゃん?でも水無月ってやつは何も言われてないし、苛めようとしてたのにさ」

会長……?会長って誰だろう。その会長のおかげで私は今まで苛められなかったってことなのかな。でもきのちゃんは苛めを受けているの?

「苛めようとしてたの?あの子ちょー良い子じゃない」

「えっ、そうなの?」



そうそう。きのちゃんはすっごい良い子で……

「レギュラーについていっぱい教えてくれるのよ。テニス部の中って言うの?この前も咲本ってやつが朝わざわざ幸村君の家に迎えに行って、二人で登校してきたとか、柳君に泣きついて迷惑かけたとかさ」



『……え、』

確かにこの前幸村君と朝登校したけど、あれは幸村君が迎えに来て一緒に行ったわけだし、柳のも迷惑は掛けたけど別に泣きついたわけじゃ……。


「それじゃあ私咲本の事苛めようかな〜。最近暇でさ。あ、でも会長から……」

「それがさ、会長に黙ってもう苛めてるらしいのよ。幸村君と柳君のファンの一部の子達がその話聞いて、頭にきたらしくてね」

「ひぃー、こわっ。でもそれが仁王君だったら私も苛めてたかも〜」


そこからの会話は耳に入ってこなかった。まさかきのちゃんがこんな事するなんて。私は唇を噛み締めながら屋上へと走った。


呼吸が乱れ肩を上下する。屋上のドアを開くと花に水やりをする幸村君がいた。いつの間にか授業が終わるチャイムがなっていたみたいだ。


「あ、咲本さん」

『……っ、こん、にちは』


「どうしたんだい」

『へっ?』

「すごく泣きそうな顔をしているよ」

『え、あっ……はい』

「体調は良くなった?」

『あの……昨日のドリンク、すみませんでした』

「ううん、全然。咲本さんがドリンクの分量を間違えるなんて初めてだったから、すごく体調が悪かったんだろうなって思ってね」

優しく微笑む幸村君に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。学校のチャイムが鳴り幸村君は「あっ」と声を漏らすが、急ぐ様子はなかった。


「教室、戻らないのかい?」

『……』

「じゃあ俺もさぼろうかな」

『えっ、』


「こっちにおいで」

腕を引っ張られ幸村君は私をベンチに座らせる。周りには綺麗なお花がいっぱい咲いている。

「柳と喧嘩中?」

『……喧嘩というか、私が勝手に怒っただけで』

「いつもはさ、こういう時は柳が相談相手になるんだろうけど、今回は俺に相談してよ」

『相談?』


「その教科書、どうしたの?」

『……』

「今朝、君の靴箱も見たよ」

『……その、じ、実はきのちゃんが』

「そうそう。水無月さんがね片付けてくれていたよ」

『えっ?何のことですか』

「朝、君の靴箱を水無月さんが掃除していたんだよ」

『えっ』

きのちゃんがテニス部のファンクラブの人に嘘の混じった話をしたから、私が苛めを受けているはずなのに、靴箱を綺麗にしてくれたのはきのちゃんで……。一体どういうこと?やっぱりきのちゃんは良い子なのかな。


『私、きのちゃんにお礼……言ってきます!』

また私はあの子を疑ってしまった。早くきのちゃんにお礼を言わないと。それに謝らないと。

私は勢い良く屋上のドアを開き、教科書を持って自分の教室へと走った。




みんなが離れていく


(やっぱり俺じゃ)
(相談相手にならないか……)




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